ホームゲームのある一日を 和歌山に。


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野球文化が根強い和歌山に“Jクラブをつくろう”と生まれたアルテリーヴォ和歌山。順調にカテゴリを上りつつ、厳しい現実とも戦っている。今回は地域クラブの現状と意義をGMの児玉さんに伺った。

ケガ人続出。苦しいシーズンを戦う。

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●今季の戦いはいかがですか?


「史上初の7連敗もしましたし、苦しいシーズンになっています」

●要因となったのは?


「ケガですね。特に守備の要である三本菅が第一節でケガをしたのは大きかった。そのうえ、キーパーが2人ともケガをしてしまい、予備登録していたサードキーパーを使わざる得ない状況にもなりました。選手のやりくりが大変で、試合ごとにポジションを入れ替え。前の試合でCBだった選手が、次の試合ではCFをやっていたこともあります」

●最初にケガ人がでてしまっては勢いに乗れません。


「今季は監督、キャプテン、副キャプテンと全員が就任したところでしたし、入ってきた選手も新卒の若手が多く、何もかもが新しくなっていました。フレッシュといえば聞こえがいいのですが、結局はにわか仕立てです。開幕戦こそフレッシュさが勢いになって勝てましたが、そこでケガ人がでてしまってからはボロがでてきました。チームが成熟していない脆さを露呈してしまいましたね。そんなチームが勝てるほど関西サッカーリーグは甘くありません」

●今季の関西1部リーグは激戦ですものね。


「今季、他のチームが強力な選手補強をしている中で、アルテリーヴォは補強ではなく、補充しかできなかったんです。去年は仕事や家庭の事情で辞めていく選手が多かったのですが、代わりに加入してきたのが関西リーグをはじめて戦う新卒の選手たち。今季は最初から『降格候補はアルテリーヴォ』だと言われていましたし、私自身も今季はガマンの年だと思っていたんです。とはいえ、実際に勝てないとそんな悠長なことを言っていられなくなりましたけど(苦笑)。今はケガ人が戻って来ていますし、新しく入ってきた選手の経験値も高い。ようやくではありますが、チーム状態は上向いています」

 

上のステージに行くには、体制も強化が必要。

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●選手の獲得は大変ですか?


「良い選手を獲得するには、情報が必要なんです。うちは他のクラブのようなコネクションもありませんし、地理的にも離れている和歌山には情報がそうそう入ってこない。積極的に情報を集める意味でも強化担当を置きたいと考えています」

●組織としても強化を図る必要があると。


「サッカー文化のない和歌山で、100%ボランティアのど素人の私たちが右も左もわからずにクラブをつくったんですから、ここまで順調に来られたのが不思議なくらい。立ち上げた当初はまわりから『関西リーグに行くのも無理』だと言われていましたからね。現在は関西リーグ1部で戦っていますが、カテゴリが上がれば現実も見えてきます。常に動ける実質的なフロントが私しかいない状態ですし、このままボランティアに頼るのも限界があります。徐々にプロフェッショナルな組織に変えていかないと」

●アルテリーヴォのステージが一段上がったということですね。


「サッカー界のことを何も知らずにはじめて、ここまで来られましたが、さらに上を目指すためにはチャレンジをしなくてはいけない場面がやってきます。でも、そのための準備がまだまだできていないのが現状。例えば、アルテリーヴォは[安全型]の財政状況で赤字を出したことがないんです。健全経営はいいことなのですが、逆に言うとお金の使い方を知らないということ。“ここ一番”が何で、どこなのか、そこを見極められる人間がいないとわからない。そして今ある財布と身の丈にあった経営をするなら、その身の丈をもっと伸ばさなければならない。選手と同じく、フロントにも補強が必要な時期になっています」

●チャレンジといば、J3加入というチャレンジもありました。


「枠の少ないJ3に入るためには地域リーグで上位にいる必要がありましたが、アルテリーヴォは前期が終わった段階で上位に入れないことがわかっていました。そして、J3に加入するということは、Jクラブになるということ。しっかりした体制を執らないといけません。先ほども言ったようにフロントに人は足りていませんし、ホームタウンをどこにするのか? も定まっていない状態から大急ぎで整えようとしても無理がでますし、信用をなくすようなことになってはクラブが立ちゆかなくなってしまいます」

●例えJ3に加入できても継続できないと意味がない。


「やりはじめた限りは、簡単につぶれるようなことをしてはいけません。アルテリーヴォはサッカー界を知らないかもしれませんが、社会にあるひとつの組織として守るべきことはやってきました。選手も同じで、サッカー選手である前にひとりの人間としてどうあるべきかが大切。仕事をしっかりするなど、人としてやるべきことをやらないと応援してもらえないんです」

●人としての魅力が地域の人とクラブを結びつける。


「うちの選手たちはスターではないのですが、地元の身近なアイドルではあるんです。選手のいる職場の人は『うちにサッカー選手がいる』って自慢してくれるんですよ。実際のふれあいを通してサッカーというエンターテインメントを楽しんでもらえるのが、地域クラブの魅力ですからね」

地域クラブはみんなが自己実現する場所。

●地域クラブの存在意義ってなんだと思われますか?


「私は福祉の仕事をしていたのですが、福祉というのはいろいろな境遇に置かれている人のそれぞれの幸せを追求すること。幸せというのは、与えられるより、与える方が実感できるんです。私の勝手な想像ですが、アルテリーヴォに関わってくれている人たちも同じだと思っています。選手は自分たちのプレーで応援してくれる人たちを喜ばせたり、元気の素になったりしていると思っているし、応援してくれている人は自分たちが応援することで選手ががんばれると思っている。それぞれが“自分が力を与えている”という幸せを実感して、自己実現しているんです。もちろん、Jクラブのような大きなクラブでもそれはあると思いますが、地域クラブという小さなスペースではより感じてもらいやすいんです」

●そういう関係になると勝ち負けを超えた関係が生まれます。


「今季は負け試合が多いので、勝利の喜びをなかなか味わってもらえていないのですが(苦笑)。そのぶん、1ゴール、1勝にとても感動してくれています。連敗しているときも、サポーターは『負けても、負けても、俺たちは応援しようぜ!』と言ってくれていました。また、『KIZUNA』というサポーターソングも誕生しました。サポーターが思いをつづった歌詞に、和歌山で活躍するTONPEIさんというアーティストが曲をつけてくれたんです」

●いろいろな人が自己実現してクラブはできている。


「Jリーグは地域と密着して成長していくことを強調しています。綺麗事のように聞こえるかもしれませんが、結局、そうしないとクラブは存続できない。言ってしまえばサッカーはツールなんです。そのツールを通して人と街との関わり合いができ、いっしょに楽しむことができるんです」

●サッカーというツールは喜びや悲しみを共有できますからね。


「私は、『ホームゲームのある一日』を和歌山につくっていきたいんです。サッカーの試合があって、そこにお年寄りから子どもまで街の人たちが集まって、ひとつのゴールにワァッと喜んで知らない人ともハイタッチする。普段、知らない人とハイタッチすることなんてないでしょう。そうやって楽しみながらお互いの幸せを交換できる、アルテリーヴォの試合がそんな場所になればうれしいですね」

●そういう日常をつくれれば、和歌山にサッカーが根付きますね。


「スポーツは特別なことではなく、社会の中の関わり合いのひとつだから、どんなスポーツを楽しんでもいい。でも、街ぐるみで感動を味わえるのはサッカーが一番だと私は思っています。これまで和歌山の人たちは野球を楽しんできていますけど、そこにサッカーの楽しみも加わっていけばいいなあと思っているんです」

Text by Masami URAYAMA