育成でしか、世の中を変えられない。


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ガンバ大阪 アカデミー本部・強化本部担当 顧問  上野山 信行さん

宮本恒靖、稲本潤一、宇佐美貴史らを育てた“育成のスペシャリスト”上野山さんが、5年ぶりにガンバ大阪に帰ってきた。これは関西サッカー界においても、うれしいニュースなのではないだろうか。Jリーグに出向し、日本から、また世界から、育成という視点でサッカーの発展を考えてきた上野山さんの、率直で明瞭な言葉をぜひ聞いてもらいたい。

 

J2から上がっても、優勝する難しさは同じ。

ーー5年ぶりのガンバ大阪はいかがですか?

「この5年間はガンバ大阪にまったく関わっていませんでしたから、新鮮ですね。プレッシャーもありますが、やりがいを感じています」

ーー戻って来られて間もないですが、今のチームをどう見ますか?

「いい雰囲気だと思います。選手は生き生きとしていますし、長谷川監督のやろうとしているサッカーもぶれていない。ガンバ大阪の攻撃的なサッカーを進化させつつ、守備を強化したチームになっていると思います。昨季はJ2で苦労したと思いますが、苦労した分、成長しています。優勝できたし、結果的に財産となったのではないでしょうか」

ーーJ2から昇格した今季。難しさはありますか?

「J2から上がったチームも、ずっとJ1にいたチームも同じステージで戦うのですから関係ありません。“J2からの昇格”という考え方をやめないと、それが言い訳になってしまう。J2は優勝して終わり、今季はJ1でACL圏内、優勝を目指す。優勝というのはどんなチームでも難しいですから、クラブ全体で“獲る!”という意志と気構えを持って戦いますよ」

 

ーー優勝を実現するためのストーリーはあるのでしょうか?

「もちろんです。それがないと成功もありませんからね。ビジョンをつくって、ストーリーをつくって、シナリオをつくる。想定外のことが起こっても対応できるよう長谷川監督は周到に準備していますよ」

 

ーーストーリーは段階で分けているんですか?

「試合数や対戦相手のことを考慮して、いくつかの段階で設定しています。選手たちも、自分たちがどういう過程で目標に向かっているのかをわかって戦っていかないと不安になります。短期・中期・長期で目的を持つことは、人と組織を動かす基本になりますから」

 

ーー組織を動かすのは人ですものね。

「組織として一番大切なのはチーム目標ですが、選手はチームの目標に加えて個人目標を持っています。例えば、“チームが優勝して自分は日本代表に選ばれる”といったこととか。クラブ・チームは選手個人の目標も考慮して、やりがいや達成感を持たさないといけません。それは、トップチームの選手も、アカデミーの選手も同じですよ」

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育成がなければ、クラブの存続も危ない。

ーー上野山さんはいつからガンバ大阪に?

「1991年の準備段階からです。はじめのころは浮き沈みというか、沈んでばかりでした。エムボマが来た97年の2ndステージでは2位になりましたが、まだ弱かった。光が見えはじめたのは、エムボマが退団して育成に転換したころ。チームのカタチがようやく見えはじめたところに西野監督が来られて、味つけをしてもらいました」

 

ーー育成がカギとなった。

「ぼくはそう自負しています。2005年の優勝メンバーには育成した選手が11名いましたし、貢献できたのかなと。あとは、マグノ・アウベスなど大物の外国人選手も入ってきて、彼らと育成の選手を西野監督がうまく融合させてくれました」

 

ーー育成に転換といっても簡単にはいきませんよね?

「クラブの決算でも育成だけが赤字。でも、これは投資なんだと言い続けたんです。企業だってお金と時間をかけて新商品を開発します。人間も同じですよ。育成でいい選手をつくって、成果を上げる。これを継続していかないとクラブ自体の存続も危ないんです。これはぼくのポリシーで、育成でしか世の中を変えられないと思っています。でも、当初はなかなか理解されませんでした。結果を出すまで我慢だと思ってやっているうちに、宮本や二川、家長といった選手が育ってきました」

 

ーー育成とトップチームのチームづくりは同時にできるものですか?

「育成からどのようなサッカーにするのかを考えてつくっているから、それが染みついたサッカーがトップチームでもできる。ガンバのサッカーは育成からつくっているんですよ」

 

 

大切なのは目的。手段ではない。

ーーアカデミーのセレクションで見るポイントは?

「ボールを持ってスムーズに動けることと、ボールを止めたときや持っているときに視線が上にあがること。これが意外と難しくて、下を向いてしまう子どもが多いんです。あとは、ファーストタッチに意図があるか? 考えてプレーをしているか? プレーを楽しんでいるか?など、小さな子どもでも見ればわかりますよ」

 

ーー上野山さんの育成方法は独特だと言われています。

「世間で言われていた基本的な考え方は無視してきました。例えば、3対1のボール回し。普通は四角形でやるんですけど、ぼくの方法は三角形。そっちの方が難しいんですけど、難しいことができたら選手はうまくなるし、乗り越えたという達成感も得られます。人間ってラクにできることにピンと来ないんですよ。選手の目標はプロになることですから、難しいことを中心にやっていって、最後に “これができたらプロになれる”という実感を持たせます」

 

ーーそういう考え方はいつから?

「選手としてヤンマーにいたころから日本サッカーリーグの試合とヨーロッパのリーグの試合を見て、まったく違うと感じていました。日本の選手より、ヨーロッパの選手はうまい。じゃあ、何がうまいんだろう? と考えたんです。技術、戦術、フィジカル…ぼくは『考える力』だと思いました。では、考える力を養うためにはどうすればいいのか? コーチが選手たちに質問をして選手に考えさせる指導を主にすることにより、選手は考えるようになる。考えたら頭の中が整理できるんです。そして、整理ができると新たな行動が伴ってくる。その繰り返しをやろうと思ったのが、ぼくのスタートです」

 

ーー考えることで目的と手段を見つけた。

「目的が大切。攻撃の目的は“ゴールを奪うこと”ですよね。だから、ゴールを奪うためにパスをして、それができないときはゴールに近づくパスをする。順番があります。それをちゃんと子どもたちに伝えないと。コーチの言葉は簡単ですよ。『ゴールに行っていましたか?』。そのプレーができなかったら“なぜできなかったのか?”を選手は考えます。そこで、ボールがうまく止められなかったからとわかれば、『どうすればいいと思う?』『練習します』となるんです。でも、コーチは意外と目的を言わなくて、手段ばかり教えてしまう。試合でも『走れ!』『声をだせ!』と叫んでいますが、なんのためにどんな声をだせばいいのか? 目的がわからなければ子どもたちは腑に落ちない」

 

ーー目的がすんなり理解できるとプレーに迷いがなくなります。

「だから言葉も重要です。どんな言葉を、どのタイミングでかければ子どもたちにハッと気づかせることができるのか? 結果を先に教えてはいけないんです。ぼくたちは先生ではなくコーチですから、ティーチングではなくサポートをして子どもたちの可能性を引き出す。そして、沈黙を恐れてもいけません。子どもたちはちゃんと考えているのですが、自分の考えが間違っていることを恐れてなかなか口にしないんです。時間がかかっても子どもから言うのを待つ。そして、たとえそれが間違っていても“なんでそうなるの”とは言いません。否定してしまうと信頼関係が築けませんからね」

 

ーーコーチも大変ですね。

「チームではなく、個人を育てるのが育成。選手が100人いたら、コーチは100名分の個別カルテを持たないとダメなんです」

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コーチの質がサッカー界の質を上げる。

ーーJリーグでもこういった話をされていたのですか?

「研修会で話したり、ときにはクラブに行って練習を見せてもらって意見したりしていました。単刀直入に言うので、そうとう嫌われましたけど(苦笑)」

 

ーーでも言わなければいけないですよね。

「子どもたちのためですから。それに、良いコーチがいれば良い選手が育ちます。良い選手がでればファンやサポーターは喜びますし、スターにもなる。スターができれば観客も増えてクラブが潤うから、また育成できる。コーチの質が上がると、サッカー界全体の質も上がります。コーチたちはそれができる場所にいるんだから、やらないといけませんよ」

 

ーー上野山さんから見て、Jクラブの育成はどう感じましたか?

「全体的なムードとして、アカデミーの大切さは理解されています。理解はされているけど、強化をされていないというのが印象。難しいことはわかっています。育成は投資ですが、投資してもお金を回収できない場合もありますから、環境を整えられないクラブもある。でもね、たとえ環境がなくても育てるのはコーチです。コーチが勉強すればいいんですよ。Jリーグにいたころ、クラブのコーチたちが指導しているところを映像と音声に録って、コーチ自身に自分が言っている言葉を文字に起こしてもらっていました。最初は“言葉なんて関係ない”と反発したコーチも自分の言葉を文字にして読むと、精神論しか言っていないことに気づいてくれるんです」

 

ーー上野山さんの考えを理解するコーチ陣も増えたのでは?

「練習試合が終わったあとに、どうやればいいのかを話し合っているコーチもいますし、“こんな失敗をした”と反省して連絡してくれる人もいます。それが本当にうれしいんです。コーチも反省が大切。だから今年のはじめ、ガンバ大阪へ戻ってきたときにコーチ陣たちを集めて最初に言ったのが“2013年の反省をしましたか?”という言葉です」

 

ーー昨シーズンはガンバ大阪ユースも悔しい思いをしました。

「個人の反省とチームの反省。そこからがスタートなんです」

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語り継がれるサッカー文化を大阪に。

ーー上野山さんはどんな選手を育てたいのですか?

「ファン・サポーターが観て、楽しい選手ですね」

 

ーーそんな選手がガンバ大阪の魅せるサッカーをつくっていく。

「プロのサッカーの試合はショーですから、ファン・サポーターに喜んでもらうことが重要。まだまだ足りないですね。試合後に彼らと混じって帰ることがあるんですけど、残念なことにあんまりサッカーの話をしていないんです。『今日、何食べる?』なんて話をしている。それは、チームとして感動を与えきれていないということ。スペインだったら、試合後はみんなサッカーの話をしていますよ」

 

ーースペインはサッカー文化が根づいていますから。あとはサッカーを楽しむ環境が整っているのも大きいと思います。

「ガンバ大阪も2015年に新スタジアムができます。やっぱりサッカー専用スタジアムは違いますよ。スタジアムに足を踏み入れた瞬間から違う世界を味わえて、さらに試合を観てもらってサッカーの感動を与える。来たときから、帰るときまで“楽しかったなあ”と言ってもらえるスタジアムにしたいですね」

 

ーーそうなると、大阪のサッカー文化はもっと発展していきますね!

「浦和レッズを特に意識しているわけではありませんが、東に真っ赤に染まるスタジアムがあるなら、西の真っ青に染まるスタジアムから東に負けないサッカー文化をつくりたい。サッカー専用スタジアムでもっとサッカーの楽しみを伝えられるようになったら、スタジアムの外でもサッカーの話をしてもらえるかもしれません。文化は語り継がれるものですから、どこでもサッカーの話題がでるようになれば、大阪のサッカー文化も変わってくると思うんです」

 

ーーそして、新スタジアムでも目指すものは・・・

「優勝です。ファン・サポーターとひとつになって優勝の喜びを分かち合いたいですね!」

 

ーー最後にファン・サポーターへのメッセージをお願いします。

「今シーズンもチームとして浮き沈みがあると思いますが、根気よく後押ししてもらえたら。みなさんの後押しが我々のチカラになります。シーズンは長いですし、お金も時間も使わせてしまいますが、熱い応援をよろしくお願いします」

 

Text by Masami URAYAMA