「Jのつく場所へ」、ようやく踏み出した大きな一歩。

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バンディオンセ加古川 監督 橋本 雄二氏

解散の危機を乗り越えてきたクラブが、ついにここまでたどり着いた。「東播磨にJリーグを作る会」発足。これまで届きそうで届かなかった目的地へ。東播磨の人たちと共に、力強く歩んでゆく1年となる。

 

Jのつく場所」を目指して。

 

――2014年1月、Jリーグの準加盟申請をすると発表されました。

「これまでクラブはずっと“『J』のつく場所へ”を掲げてきましたが、市民の方たちにおしあげていただいて“東播磨にJリーグを作る会”が発足、いよいよ、地域の人々と一緒にJリーグを目指していけるようになりました。Jリーグチームをつくるためには行政の支援が必要ですから、そのために署名活動も始めています。オフの間は、選手たちも一緒に署名活動しました」

 

――地域のみなさんの反応は、いかがですか?

「いろいろな方に“頑張れよ!”と声をかけていただいて…嬉しいです。私たちは、今までクラブの存続に精一杯で、地域に対して何もできなかったのに。おじいちゃん・おばあちゃんから小さな子どもまで、こんなにたくさんの方が応援してくださっているのかと、改めて思いました。5年間かけてやっと踏み出した、大きな一歩です」

 

――5年前には、解散の危機もありました。

「2008年に神戸から加古川に移転しましたが、JFLへ昇格できず支援もなくなってしまった。まさに解散の危機でしたね。それで翌年はプロ契約を解消して、アマチュアチームとしてスタート。私は監督と社長を兼任し、支援してくださる企業を探して営業もしました。最初は“バンディオンセ? なんですか、それ”という反応です。そこで、高校サッカー経験者などサッカーを知っている人を伝っていって、少しずつ関わってくれる人が増えてきて。やっとここまでたどり着きました」

 

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目的地へ向かうために必要なもの。

 

――あれから今年で6年目、“社長”にも慣れたのでは?

「ずっとサッカーだけ。それこそジャージばかり着ているような生活だから、今もスーツは苦手です。最初は“経営者だなんて、そんなことできるはずもない”と思っていたけれど、サッカーの現場以外のことも考えたり勉強したり、いろいろな方とお話させていただいて、とてもいい経験です。それに、監督としてだけではなく、社長としてクラブ全体の責任を負うようになったことは大きかった。私自身も変わりました」

 

――ご自身の変化ですか。

「バンディオンセ神戸の監督だった頃は、自分自身もどこか冷めたところがあったと思います。あの時の自分のままだったら、選手たちはついてきてくれなかったでしょう。それが、解散の危機を迎え、崩壊しかかったチームを背負うことになった。もう、それまでとは責任が全然違います。そりゃ、しんどかったです。でも、選手やまわりの人たちの気持ちも伝わってきたりして、“これは、やらなきゃいけない”って思った。熱い気持ちになれたんです。それはチームも同じでした」

 

――チーム内に温度差はないと。

「ひとりでも冷めた人間がいると、そこからチームは崩れてしまいます。だから選手に求めるのは、どれだけチームに貢献できるかということ。自分は特別だと思っている人間はいらない。謙虚さ、感謝、コミュニケーション、そこのところはずっと言い続けています」

 

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冷めた人間はいない。温度差のないチームづくり。

 

――チームづくりで大切にされていることは?

「ずっと思ってきたことは、自分の常識を疑えということ。私はなんでも白黒はっきりさせるタイプだったんですが、そうすると、自分の考え方もそれで固まってしまう。意見を聞き入れることや柔軟な発想ができなくなるんです。でも、白か黒かではない、その間のグレーの部分にもいろんなことがあるわけですよ」

 

――グレーゾーンですか。

「違う意見を頭から否定するだけでは、まわりはついてきてくれません。異議を唱える相手に対して“誰にものを言ってるんだ”って言った瞬間、終わりますよ、信頼は。白か黒かで割り切るのではなく、グレーゾーンも尊重しつつ謙虚な気持ちを持ってやれば、自分の幅も広がるしお互いの理解も深まります。“協力するよ”“応援するよ”ってなるじゃないですか」

 

――相手を受け入れる、懐の深さですね。

「意見があれば言えばいいんです。でも、言い方やタイミングがある。感謝や謝罪を伝えるのはできる限り早い方がより伝わりやすいだろうし、チーム内で声をかけあう時だって“がんばれよ”と“がんばろう”では印象が違ってくる。きちんと説明することやフォローが必要になる場合もあるでしょう。コミュニケーションスキルというか、そういう部分の構築があって、今、いいチームになってきていると思います」

 

――サッカーだけではなく、一般社会にも通じますね。

「“サッカーだけしていればいい”というのは違います。サッカーをプレーする“オン”の部分だけでなく、それ以外の“オフ”の部分も大事。そこもピッチで出るんです。サッカー選手としてだけではなく、人として精神的な成長をすれば、周りにも気を配るようになるし、自分で気づき判断して行動できるようになる。気持ちが変われば、プレーも変わります。そういうことをずっと言い続けてきて、選手たちは声のかけ方も変わったし、チームメイトの日頃の様子や気持ちをみんなが把握するようになりました。仲間の気持ちを知ることで、同じ温度で戦えるようになっています」

 

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サッカーだけではない。
人生を分かち合うチーム。

 

――今、どんなチームでしょう。

「点を取ったらみんな集まって喜び合うし、負けていても最後まで戦うし。いい時も悪い時も、どんな時も全員で必死になって戦うチームです。チーム力ではどこにも負けない」

 

――チーム力ですか。

「去年、全国社会人サッカー選手権でヴォルカ鹿児島※と対戦しました。うちは決定的なチャンスが3度あった。でも、それを決めきれず延長になって、結局負けたんです。終わった瞬間、決定機を外したFWはグラウンドで大泣きしてるわけですよ。それを、選手たちみんなが寄っていって声をかけている。誰もそいつに文句を言わない。誰よりも走って、誰よりも声を出して頑張って、みんなを鼓舞しているあいつが外したんなら仕方がないって。それを見ていて、こっちは笑顔ですよ。みんな良かった。全国でも戦えるじゃないかって。悔いがない。ああ、いいチームになったなって思いました」

 

※2013シーズン九州リーグ優勝、地域リーグ決勝大会で決勝リーグに進み4位、鹿児島ユナイテッドFCとしてJFLに昇格。

 

――みんなが熱いチームですね。

「勝っても負けても、見てくれる人たちが“よくやった。こんな試合をするんだったらもう一回見に来る”って言ってもらえる。それはどこかって言ったら、気持ちを出せるかってことなんです。ひたむきに、必死に身体を張ってプレーしたら、見ている人は感動するんです。だから、みんな同じ温度で戦おう、冷めた人間はいないようにって。そういうのを考えると、求めているいいチームになってきたと思います」

 

――“バンディオンセらしい”という感じがします。

「試合の勝敗だけの付き合いだったら、ここまで来れなかったかもしれない。人生、サッカーだけじゃないんです。これまで辛いこともたくさんあって、このままサッカー続けていけるのかって、そこをみんなで頑張ってきた。だから楽しいんです。こいつらと一緒だから。私はこのチームのことを、自分のチームとは思ってない。みんなでつくってきたチームです。このチームでサッカーをしているというよりは、人生を共にしている」

 

――続けてこられたのは、共に戦う仲間がいたからなんですね。

「本当にたくさんの人に支えられてきたと思います。大内コーチは加古川に来てからチームに関わってくれたんですが、自分の仕事も忙しい中でずっと一緒にやってきてくれました。6年前の解散の危機の時は、一緒に大泣きしました。あれは、忘れられません。それから、満足な環境ではない中でチームをスタートさせた時も、選手たちが“これからも続けてください”って言ってくれた。思えば、そういう“辞めちゃいけない”っていうことが、節目節目でありました。あれから今年で6年目、やっとJリーグ準加盟申請に向けての一歩が踏み出せた。これからは、地域のみなさんも一緒に歩んでいければと思っています」

 

――では最後に、地域のみなさん、ファン・サポーターの方へメッセージを。

「今のこのチームには、冷めた気持ちの者はいません。全員が熱い思いを持ってひたむきにプレーします。“もう一度見に来よう”と言ってもらえるような試合を見せます。ぜひ、暖かい声援をお願いします。それから、クラブは今、Jリーグに向けて歩き始めました。バンディオンセ加古川は、みなさんのクラブです。みなさんと一緒に、Jクラブをつくりたい。一緒に、Jリーグに行きましょう」

 

 

*Jリーグへの参入を目指しているバンディオンセ加古川は、活動を応援する皆様からの署名を募集しています。東播磨地域をサッカーで盛り上げ、地域社会・経済の発展と青少年の健全な育成に貢献できる「J」のつく場所を目指す、クラブの取り組みを署名で後押ししましょう!

詳しくは公式サイトをご確認ください。

(署名用紙は公式サイトからダウンロードできます)

www.banditonce-kakogawa.jp/

 

Text by Kaori MAEDA

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