それでもサッカーが好きだから。どこよりも熱く、ひたむきに戦う。

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京都紫光サッカークラブ 監督 児島 信章 氏

設立は1922年。100年近い歳月をずっとサッカーと向き合ってきたクラブが、京都にある。トップチームを率いるのは20代の青年監督。さまざまな苦悩を抱えながらひたむきに戦うクラブの“今”を語っていただいた。

 

環境に文句を言わない。
どんな時もサッカーを楽しむ。

 

――京都の歴史あるクラブとして知られています。

「1922年の設立で、これまで多くの選手が在籍されました。“高校時代の監督の出身クラブだから…”と入団する選手もいます。その意味では、クラブの伝統を守らなければ…というプレッシャーはあります。ただ、クラブの歴史は長いですが、今のチームは選手も監督も日々チャレンジです」

 

――どのようなクラブなんでしょうか。

「“地元のサッカークラブ”ですよ。トップチーム以外にも、キッズ、ジュニア、ジュニアユース、女子、そしてシニアのチームがあります。スポンサーが多いわけではないので、クラブの運営費は選手たちの部費です。関西リーグのクラブの中には、プロ契約の選手がいたり選手の仕事や生活面をサポートしているところもありますから、あまり恵まれた環境ではないかもしれません。欲しいと思う選手がいても、なかなか、条件的にうちのクラブを選んでもらうのは厳しいのが現状です」

 

――練習環境はいかがですか?

「トップチームの選手は社会人が多いので、クラブの活動は“仕事優先”。練習は平日の夜、市のグラウンドで週3日です。時間は限られていますが、練習メニューはタフですよ。それ以外でも自主的にトレーニングをする選手は多いです。オフでも自主練の期間を設け、練習試合もかなり組みました」

 

――府リーグのチームも同じグラウンドで練習していますよね。土のグラウンドで…雨の日ももちろん?

「雨の日はドロドロになります(笑) そんな環境ですが、選手はみんなサッカーを心から楽しんでいる。そこがチームの魅力です。チームのテクニカルディレクターを務めてくださっている松山さん(松山博明氏:京都紫光クラブ出身、元大分トリニータヘッドコーチ)も、このチームは本当にサッカーが好きな選手ばかりだと言ってくださっています。環境に文句を言わない。仕事があっても空いた時間でコンディションを整える。そして、どんな状況でもサッカーを楽しむ。みんな“少しでも上を目指そう”という気持ちでサッカーと向き合っています」

 

――そのチームの監督になられた経緯を教えてください。

「高校まで学校のサッカー部に所属して、大学の時もサッカー部で続けたかったのですが、遠方のため続けられなかったんです。でも、真剣にサッカーをしたいということで京都紫光サッカークラブに選手として入りました。卒業後もクラブには所属していたんですが、仕事の関係もあって思うようにプレーできなくなってきた。だけど、チームのことを大切に思っていたし、自分が出ていない試合でも勝ったら嬉しかったから、ボールボーイも記録係も率先してやっていました。そんな経緯もあり、試合に出ていなくても副キャプテンとしてチームをまとめ、試合でも指揮を執るようになったんです。それが2011年。関西2部で3位になったシーズンでした」

 

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就任1年目から降格の危機。
試練の中に見出したものは…

 

――正式に監督に就任されたのは2012シーズンですね。

「厳しいシーズンでした。開幕戦でつまずいて、7連敗0得点。その後連敗は止めたけれど、終わってみたら関西2部7位で、府県リーグとの入替戦を戦うことになりました。あのシーズンの関西2部は、今までにないくらいレベルが高かった。でも、勝てなかった一番の理由は、慢心でした。2011年は3位、あと少しで昇格だったんです。次は自分たちが昇格する番だと思っていた。とんでもなかった」

 

――その入替戦では、兵庫県リーグ1位の獨協蹴鞠団(姫路獨協大学サッカー部のチーム)に勝って残留を決めました。

「昇格を目指す府県リーグのチームは、入替戦の1週間前にも試合(府県リーグ決勝大会・決勝戦)があります。でも、残留がかかる関西リーグのチームは、リーグ戦終了は10月、カップ戦も負ければ11月には終わる。だから、オフの間はとにかく練習試合を組んだ。同じ関西2部で最下位となり降格したOKFCさんも、練習試合に協力してくれました。いくつかの大学のクラブにも何度も試合を組んでもらい、大学生対策も徹底しました。とはいえ、入替戦は何が起こるかわからない。正直、プレッシャーは相当だった。でも、ミーティングで選手たちに言ったんです。会場は西京極のメイン。素晴らしい環境でプレーさせてもらえる。だから、楽しもうと」

 

――そして、2013シーズンも関西2部で健闘。チームには何か変化がありましたか?

「関西リーグで戦えるということを大切にしよう。それから、すべての試合を挑戦者の気持ちで戦おうと言いました。残留って言っても、関西リーグでいちばん下位なわけですよ。だから、どこよりも練習して、どこよりもひたむきに戦おうと。チーム全員がそのことを理解して、ひとつになって戦えたことが良かったと思います」

 

――チームがまとまったポイントは?

「選手同士のコミュニケーションです。2013シーズンは、開幕前から選手同士でかなり話し合っていました。私は監督として選手たちに意向を伝える。それについて、選手間で意見を出し合うイメージです。もちろん、選手の中で意見が分かれることもある。でも、そこで対立するのではなく、お互いが相手をわかろうとしていました。それぞれの持ち味を活かしながらやっていくためにはどうすればいいか。そういう意味では、話し合いの中で全員が思いを共有できていたように思います。その中心がキャプテンの中田です」

 

――キャプテンの存在は大きいですか。

「絶対不可欠の存在ですね。コーチ陣とも話し合えるし、選手たちをまとめることもできる。両方からの信頼が厚い選手です。姿勢で見せるんですよ。とても真面目で、努力家で、どんな時も100%。練習が終わった後も中田は残ってボール蹴っていますし、自主練も積極的に参加する。今のチームは監督の私から見ても“真面目”という感じですが、中田の影響は大きいですね」

 

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元選手、20代、就任3年目。
チームを指揮する苦しさと喜びと。

 

――監督になられて3年目になります。ご自身の中で変化は?

「そうですね。私は年齢的にも選手たちとあまり変わりませんし、監督としてのキャリアも浅い。最初の頃は“監督”というよりもチームの“世話役”という気持ちが自分の中でもありました。試合の采配も、ぴったりハマることもあるけれど、内心は不安もあった。就任1年目で7連敗した時は、前監督に“私ではだめだと思います”と進退伺いしたほどでした。意識が変わったのは、松山テクニカルディレクターが来られてからです」

 

――J1でも監督経験のある方ですね。

「側におられるだけで、ものすごく勉強になります。私だけではなく、チーム全員にプラスをもたらしてくれる方です。サッカーの見方や考え方もそうですが、人間性も素晴らしい。S級ホルダーでテクニカルディレクターの立場だったら、アマチュア監督の采配を黙って見ていられないと思うんです。だけど松山さんは、まず、私を伸ばそうとしてくださっている」

 

――伸ばすような指導ですか、具体的には?

「松山さんは、ヒントをくれる。考えさせてくれるんです。まず私の意見を聞いて、それに対してアドバイスがある。そうやって、試合の局面局面で自分の考えや判断を確認できるわけだから、すごく勉強になりますし、采配や発言にも自信が持てるようになりました。サッカーの見方も変わりましたし、視野もずいぶん広がったと思います。松山さんが来られたことは、私にとって、チームの“世話役”から“監督”に変われるチャンスでした」

 

――選手との関係はいかがですか。選手時代の関係を引きずると難しいと思いますが。

「これまで同じ選手だった人間が、スタメンを決めて采配をふるうわけです。不満を持つ選手もいるでしょう。その気持ちがわかるから、私もかなり悩みました。ただ、いちばん大切なのは“信頼”だと思うんです。だから、監督として、選手から“感謝”されるのではなく“信頼”されるようになろうと。その意味では、監督としてのレベルをもっと上げていきたいし、選手ともきちんと対応していかなければと思っています。自分の采配についてしっかり説明すること、選手からの意見や相談にも真摯に向き合うこと、声かけにしても、選手の気持ちを尊重してモチベーションを上げる言葉を選びたい。まだまだこれからも悩むと思うけれど、そういう努力を続けていきたいと思っています」

 

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いろんな人に見て欲しい。
見せたいチームでもある。

 

――2014シーズンへの抱負を。

「クラブとして、2つのテーマを持ってシーズンに臨んでいます。ひとつは、勝つこと。大学生のチームが昇格し、関西2部は社会人チームだけになりました。どこのチームも真価が問われるシーズンだと思っているはずです。厳しいリーグになるでしょう。その中で、勝ちにこだわりたい。必ずしも恵まれた環境とは言えない中で頑張ってきた選手たちの思いもあります。私自身も、これまで松山さんをはじめ多くの方に支えてもらってきた成果を出したい。それに、クラブの将来のこともあります。最初にお話したように、今は選手の獲得にも苦労している状況です。いい選手に“このチームでプレーしたい”と思ってもらうためには、勝たなければ。特に、今、このクラブでプレーしている小中学生の選手たちが、高校を卒業してまたここにもどってきてくれるような、強く魅力のあるチームでありたいのです」

 

――子どもたちに憧れられる存在ですね。もうひとつは?

「観客動員です。今シーズンは、ひとりでも多くの方に試合を見て欲しいと思っています。関西リーグは無料だから、私もサッカー好きの友人を呼ぶんですよ。みんな、来る時は“Jリーグじゃないんだろ”“面白いか?”っていう反応。でも、実際に試合を見たら面白いって言ってくれる。どこが魅力かといったら、選手がみんな、すごく気持ちが伝わるプレーをすると。見ているほうも思わず力が入るって言ってくれます」

 

――確かに。昨シーズン、どんな試合も最後まで懸命にプレーする姿は印象的でした。最後にクラブからのメッセージをお願いします。

「今のチーム、本当にみんなサッカーが好きです。高いモチベーションで、全力で、ひたむきにプレーする。だから、いろんな人に見て欲しい。見せたいチームでもあります。チームワークとひたむきなプレーで上を目指し、見に来られる方を魅了する試合をしていきたい」

 

Text by Michio KII

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