大学サッカーは、決して回り道ではない。


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阪南大学サッカー部監督、阪南大学流通学部教授 須佐徹太郎氏

「どうせやるなら日本一を目指す組織にしたい」。確固たる目標を持って突き進んできた須佐徹太郎監督のもと、就任当初3部リーグだった阪南大サッカー部は今や強豪校へと変貌した。大学での経験は、選手として人として成長させてくれる。数多の選手が時に迷い挫折しながらも、成長して卒業していった。プロになる選手もいれば、別の進路へ進む学生もいる。そんな分かれ道に立ち続けてきた須佐監督に、大学サッカーの現状と未来についてお聞きした。

 

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勝つために「仕掛けて崩す」。

 


――阪南大学サッカー部は、どんなクラブでしょうか?

「日本一になることとプロ選手を出すことを目標にしています。勝つことを目指さない限り最大努力なんてできないし、成果を上げないと誰も認めてくれませんから。日本一を目標に阪南大の監督になって28年。ギリギリの努力をすれば、簡単に日本一になれると思いましたが、そうはいきませんでした(笑)」

 


――日本一を目指すサッカーのスタイルは?

「ボールを持っている方が絶対に有利なサッカーにしたい。そのためには、ボールをつなぐのではなく、相手を抑えて流れをコントロールしゴールを目指すことです。それが『仕掛けて崩す』。攻撃では『守備陣を打ち破る』ために、守備では『ボールを奪って攻めに転じる』ために、仕掛けて崩すんです」

 


――難しそうです。

「相当な困難がありますよ。今年のW杯では、グループステージで決着のついた40試合のうち19試合はボール支配率が低い方が勝っていて、異変が起きているとかトレンドが変わるとか言われています(阪南大学サッカー部アドバイザー・サッカーアナリスト庄司悟氏提供資料)。でも、サッカーの根本はゲームです。勝つか負けるか。そのベースはゴールを決めることと守ること。ゴールを決めるために速い攻めがあり、攻めるために守備でボールを奪うんです」

 


――阪南大のサッカーが『楽しい』と言われる所以ですね。

「ゴールするために、一瞬の駆け引きで相手をかわし、抑えられても跳ね除ける。そこに快感がある。だから楽しい。でも、それをするには相当磨いていかないと。日々の練習を辛抱強く積み重ねることが必要です。我慢もしなきゃいけない。でも、緩くないからトップに昇れるし、だからこそ美しいんです。スペクタクル性がでてきて、プレーして楽しく観て楽しいサッカーになるんです」

 


――今年のチームはいかがでしょうか?

「いいですよ。仕掛けて崩すだけではなく、攻めのスピードが相当速い。十分全国を狙えるところに来ています。しかし同時に脆さもある。全体で気持ちをひとつにしてそこに向かうぞという力が弱いんです。チームの求心力が弱いと、ずるずる行ってしまうこともある

 

 


――原因はどのあたりなんでしょうか。

「世代的なものもあるかもしれない。みんな、他人から憎まれるようなことは言いたくないんですよ。チームをひとつにするためには、そこからはずれそうになる選手に対して、時に徹底的に批判したりダメ出ししたりすることも必要なのに」

 


――自分に自信がないと、ダメ出しはできません…

「それができるのが、4年生なんです。どんな大物ルーキーが来ても、しっかりトレーニングと「経験」を積んでおれば、絶対4年生の方が技の錬成度・戦術的認識度・チーム作りやトレーニング達成に対する積み重ねの深さの点で優れているはずで、上から下へ浸透するがごとく伝わっていくのが『上下関係』だと思います。4年間積み上げてきたものは、揺るぎないものだから。そういうチームにならないといけないんです。それが伝統なんです。残念ながら、今はまだそれができているとは言えないですね。トップチームに4年生が少ないのは課題です」

 


――チームづくりの難しさですね。では、監督としての喜びは?

「選手の成長ですね。プレーが変わったなとか、難しい課題をクリアしてぐっと伸びてきたのを発見したときは、無常の喜びを感じます。指導者がどうして毎日グラウンドに出るか。選手たちをずっと見ていると『あっ、こいつ違ってきたな』っていうときがあるんですよ。それを見逃してはいけない。そのタイミングで適切な課題を与えたり使ってやらないといけない。それをするには指導者が豊かじゃないと」

 

 

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選手と向き合う指導者の目線。


――選手の経歴を見ると、Jクラブのアカデミーや名門校出身者が多いですね。全国からプロを目指して阪南大学に来るイメージです。

28年前は3部だったクラブですが、スポーツ推薦をするようになっていい素材を持った選手が入学するようになりました。愛媛FCの石丸監督や浦和レッズに行った持山が最初のプロ入りで、今年は6人がJクラブに入団しました」

 


――レベルの高い選手が集まると、監督も楽しいのでは?

「苦労も多いですよ。層が厚すぎていい選手みんなを使えないときもあります。梁(ベガルタ仙台)、深谷(FC岐阜)、松浦(元徳島ヴォルティス)、大西(カターレ富山)たちがポジションを争っていた03年は、選手をどう試合に出すか、本当に頭を悩ませました。全員使ってやりたいんですけど、4-4-2でポジションを固定してしまうとどうしても難しかった。当時、永末(プロに誘われるも普通の会社員を目指すということで断る)・大西・松浦・広瀬(栃木)たち4人がストレッチをしながら会話していたのを聞いたことがありました。『俺ら4人で1枠だよなぁ…監督は左サイドで(梁)勇基を外さないよな。そうしたら俺ら出られないもんなぁ』って。こんな思いを持っているのかと…そのときは本当に気を使いました」

 

――すごいメンバーですね。監督は、選手のどんなところを見ているんですか? 監督がいい素材だと思うのはどんな選手でしょう。

「誰が見ても良い選手は高卒でプロに行きます。でも総合的に良いとは言わなくても、何かが飛び抜けていればプロに行ける。そこに注目しています。逆に、バランスは良いんだけど特徴がないというのが一番困る。でも、今そういう選手が多いですね。なんかみんな中盤で同じようなタイプばかり」

 


――では飛び抜けた特徴とは、具体的には?

「サッカーには11のポジションがあり、多種多様な役割があります。その役割に合った特徴を見なければいけません。背が高い。ヘディングが強い。抜群の展開力がある。ドリブルで縦にいける。左足を自在に操れるなどですね。その中でも重視しているのは身体的資質。特にスピードです。パワーは後からついても、スピードは持って生まれた部分が大きいですから」

 


――大学卒業後、入団1年目でJ1の試合に出ているベガルタ仙台の二見宏志選手の印象はどうでしたか?

「素材、資質という意味ではとても良かったですね。あの乱雑さは(笑)。それに彼は最初練習に来たとき、ずっと笑っていたんです。笑いながら楽しそうにやっていたのも良かったですね。体がとても硬そうだったから、動きも硬いのかなと思ったら意外とドリブルもできるし、体も柔らかいんです。肩甲骨回りなんか特に柔らかい。これはひょっとして、と思いました。しかしうまくいかないときもあったりで。良し悪しの波を経て成長していきましたね」

 


―― Jリーグへの意識を持っている選手は多いのでしょうか?

「みんな結構持っていますけど、プロになるのは厳しいですよ。意識を強く持たないといけないし、覚悟もいる。高いレベルでプレーするために、常に自分を磨いて、ほんの少しのところで上回っていかなきゃいけない。でも選手たちを見ていると、すぐに壊れるんですよ、気持ちが。楽しくプレーできないとか人間関係でもすぐダメになりますから」

 


――苦しい中で自分を保つのが難しい。

「世の中の仕組みがわかってないんです。グラウンドを整備してくれる人とか、大会を運営してくれる人とか、支えてくれる人がいる。サッカーしている自分という存在はそんなことの中に成り立っているんだ。そこに感謝の気持ちがあれば、自分勝手に投げ出したりできない」

 


――社会性・人間性の部分も大切なんですね。

「プロになる選手は、やはり違います。でも『あの人はうまいし全然違った』じゃなくて『こんな取り組みをしていたから、あの人をお手本にしておれも頑張ろう』って思って欲しいし、そういう指導をしています。それに、プロにはなれなくても、社会人でサッカーは続けられる。7月に行われた天皇杯2回戦でセレッソ大阪と対戦したヴィアティン桑名には、先制点を決めた荒木含めて3名の阪南大OBが出場していました。名古屋グランパスと対戦したトヨタ蹴球団にもOBがいます。そんな選手もいてもいい」

 


――プロだけがすべてではない。監督が選手たちに求めておられることは?

「自分の考えを持って世の中に発信し世の中の出来事を敏感に受信できる、バランスのとれた人間に成長してほしい。これまでいろんな選手がいました。やんちゃで型破りだった選手が国立大の大学院に進学したり、卒業後に起業して後輩の面倒を見たり。オーストラリアに留学して大学院まで出て会計士になった選手もいます。やればできるんです。卒業してからでも活躍できるんですよ。そこまで辛抱できる基礎を大学で鍛えられるんですから」

 

 

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研究者として、もっともっとサッカーを読み取りたい。


――監督は大学でスポーツ科学論や技術論の講義もお持ちです。

「どんな素晴らしい戦術でも、相手に抑えられたとき、それを上回る身のこなしというか、身体が効かないと実現できません。そのためにトレーニングをどう組み立てるかを研究しています。選手も考えないといけない。厳しい状況でどう身体を使うか、日々ずっと考える。そうすると、大学生でもまだ伸びます。今年Jクラブに行った選手たちも、トレーニングでずいぶん変わったし、ケガもしなくなった。でも、もっと上に行けたのではないか、伸ばしきれなかったのではないかという反省が残りました。まだまだ、もっと勉強しなければ」

 


――そういえば、監督はトレーニングのDVDも出されていますね。

 「大学サッカー部の監督になった頃、最初、すぐに成果が出るのはフィジカルだなって思っていたんです。しかしこれがなかなかうまくいかない。筋肉のつけ方を間違えてしまうと、文字通り体が動かなくなってしまう。ただ筋肉をつけるのではなく、技術や戦術を実現させるための体の動かし方について、とにかく勉強しました。そんなときに小山裕史氏の本を読み、競技技術と筋肉を融合させる初動負荷理論(1990年に初めて出会いましたので当時は「初動負荷」という言葉はなく、94年に発表されたと記憶)について知りました」 

 


――トップアスリートのトレーニングでよく耳にする初動負荷理論。筋トレやコアトレとは違うんですか?

「単なる筋トレ理論ではなく、動作改善の理論です。コアトレでもありますが、安定性だけを求めるのではなく動作の中で実現していくものです。たとえばプレー中、スピードがあがったりプレッシャーがかかる中で足元から遠くへパスをしなきゃいけない場面があります。それを実現させるためには技術も大事なんだけど、身体支配力、つまり体を自分でコントロールできる力が必要になってくる。そこを鍛えるんです」

 


――目から鱗の世界です。

 「当時、本(小山裕史『トレーニング革命』ベースボールマガジン社、1985年)を読んで、こんな理論があるのかと思いました。それですぐさま電話をしたらお話することができたんですよ。意気投合して1時間くらい話して、『ぜひ行きます』『ぜひ来てください』って。そこからは本当に興味深い話ばかりでした」 

 


――実際に話を聞きに訪ねるのが、須佐監督のスタイルなんですね。

「百聞は一見に如かず。本で読んだり話に聞くだけではなく、実際に会いに行って直接話を伺うと、思考が膨らんで自分の中で法則ができてくる。その法則をベースにして選手を指導すると全然違います。最初はフィジカルだったんですが、その後は守備や練習方法など、何かあるたびにいろいろな人のところに訊きに行っていました」

 


――今までどのような方にお話を聞かれたんでしょうか?

「戦術的なことでは、イタリアでゾーンプレスが体系化された頃、祖母井秀隆氏(現京都サンガGM)が連れて来られたベルデニック氏(元スロベニア代表監督・元大宮アルディージャ監督)に話を聞きに行きました。練習方法については、ヴェルディ川崎で監督をされていた李國秀氏とも何度も話しましたね。最近では、トレーニングの技術的なアドバイザーや生理学の専門家にも教えを請いてサポートしていただいています」

 


――生理学の分野も、ですか。

「生理学分野や新しいトレーニング理論が出てきた時、自分で専門書やそれこそ論文なんかを一から掘り起こしていたら、いくら時間があっても足りないでしょう。したがってこちらの無知による間違いを起こさないように、それぞれ専門領域の、信頼のおける方々に教えを乞いに行くわけです。無茶苦茶な『ハードトレーニング』をすれば、代謝が良くて弾力性の高い身体を持っている者でも、それを壊すのはとても簡単です。だからこちらも学び続けないと…。ただし、学生が向き合ってこない限り、難しいところもあります。乳酸を溜め続けるような無意味な走りをしてしまったり、生活が乱れたり、食生活が偏ったり。でも、そこを我慢することで、トップレベルを目指した取り組みを実現できるようになるんです。サッカーだけをやれという意味ではなく、『サッカー中心の生活の組み立て』を求めます。私が教えている以上はより良いものを求めていますから、トレーニングでもフィジカルでも、よそには負けないと思っています。まだまだ研究は続きますし、わからないことがあったら飛び回りますよ」

 

 

 

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大学サッカーという選択。


――そもそも、大学サッカーの役割は何でしょう。

 「プロとして長く活躍できる選手はほんの一握りです。セカンドキャリアを考えて大学進学を選ぶケースも多く、実際に大学サッカーには良い人材がたくさん集まってきている。Jリーグの新人研修に参加する新入団選手のうち、約半数が大学所属の選手たちにまで、大学サッカーの比重が高くなっています。22歳という年齢も考えると『即戦力』の力をつけさせて送り出してやることではないですか。そういう選手を鍛えることが、大学サッカーの使命です。さらに一定以上の知的レベルを備えて、サッカーの様々な分野で活躍する人材…指導者、審判、クラブ経営等々で通用する人材を育てることも、プロ選手を育てると同様に重要な役割だと思います。それに、大学を出た選手が社会でも活躍できれば、単なる企業の広告塔ではなく、社会の中でのトップスポーツとしての価値も高まるとも思います」 

 


――大学を経てプロになる選手も増えていますね。

「その分責任も重大なので、プレーはもちろん人間性も磨き、今までにない高みと覚悟を与えていくことが大事になります。大学サッカー全体を見た場合、サッカー部の組織や環境は整備されてきていますし、全日本大学選抜では海外遠征やユニバーシアード、U-21日本代表との練習試合もあります。 U-21との練習試合では前半やられた場面はあったものの、互角の戦いもできていた。大学サッカーというひとつのカテゴリーの代表としてさまざまな経験を積ませて、もっと上でやれるぞということを実現していきたい」

 


――最後に、大学サッカーの楽しさを。

「苦しい状況でもピッチでひたむきに頑張ると、相手も同様にやってくる。それよりさらに上回ろうと自分たちももっと頑張る。その姿を見て、観客は魅了される。スポーツを中心に、私たちと感動を共有してもらえればと思います。そのために、選手たちは日々鍛えていますから」

 

須佐徹太郎氏

阪南大学サッカー部監督、阪南大学流通学部教授

1955年生まれ。筑波大、同大学院卒業後、86年から阪南大監督に就任。総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント優勝2回を含めて、数々のタイトルを手にしている。今年7月に行われた全日本大学選抜スペイン遠征に、チームリーダーとして帯同した。指導者以外でも、阪南大流通学部教授としてスポーツ科学論や技術論の教鞭を執るほか、サッカーアナリスト庄司悟氏を招いたW杯を分析する講演会を阪南大主催で行うなどサッカーの発展発信に尽力している。

 

  TEXT by Yusuke ISHIKAWA