夢を持ってください。――大阪府サッカー協会の取り組み

一般社団法人 大阪府サッカー協会 会長
赤須 陽太郎 氏

今夏のW杯でベルギー代表を追い込んだ日本。次のカタール大会では決勝トーナメントで勝ち進むことが期待される。日本のサッカー熱が盛り上がりをみせるなか、47都道府県のなかでもトップクラスに位置づけされる大阪府サッカー協会の考え方や取り組みを赤須会長にお聞きしました。

W杯、関西ゆかりの選手もがんばりました。

ベルギーを追い込みましたね。
「良い結果に終わったと思います。私も現地に視察に行っていました。西野監督、がんばってくれました。大会に入る前、全般的な評判は正直よくなかったですね。しかし試合を重ねるうち、特にベルギー戦は将来の日本サッカーの進むべき姿のヒントになったのではないでしょうか」

なるほど。
「日本サッカーは4年ごとの監督交代の度に方向性が大きく変わってしまうのではなくて、ある程度、日本サッカーは“こうなんだ”ということを日本サッカー協会が示すことが大切だと思います」

関西にゆかりのある人も活躍されました。
「うれしい限りです。西野監督は元ガンバの監督ですし、宇佐美貴史選手、本田圭祐選手、山口蛍選手、乾貴士選手、そういえば乾選手の高校時代の監督は私の後輩なんです」

君の夢のために今できることがある。

大阪府サッカー協会の役割や仕組みについて教えてください。
「統括機関である日本サッカー協会<以下・JFA>のもと、47都道府県ごとにサッカー協会があります。大阪府サッカー協会もそのひとつに該当します。またJFAに加盟している府内唯一の機関として機能しています。キッズからシニアまでの各種委員会も束ねています」

大阪府サッカー協会独自の取り組みはありますか。
「大阪府サッカー協会は47都道府県のサッカー協会のなかでもトップクラスに入ります。たとえば予算規模やサッカー人口のボリューム感の大きさです。我々は“Action For Dream”(君の夢のために今できることがある)をスローガンに掲げ、1.環境整備 2.振興活動 3.社会貢献 4.国際交流 5.会員の安心・安全、を目的として多くのスポンサーを募っています。こういった活動は各所に芝生のグラウンドを設けることに繋がり、Jリーグ所属チームのグラウンドの一般開放の促進などに役立っています。今年の5月末にはガンバ大阪のグラウンドを1日だけですが一般に開放することができました。普段はJリーグ選手しか立てないピッチで子供達などにゲームをしてもらうことで、サッカーをすることの喜び、楽しみ、嬉しさを体感いただけたと思います。シニアの方はもちろんですが、子供達の笑顔が忘れられません。余談になりますが、子供達がスタジアムに入ってきた時、歓声があがるわけですけど、一番喜んだのはベンチなんです。やはりいつもJリーグの選手が腰かけているわけですから、そこに自分が座ることができるということなんでしょうね。私自身も高校生の時にはじめて芝生でゲームをしましたが、土が芝生にかわるだけで、上手くなった気がしたものです。そういった意味では私の時代に比べ、大阪府のサッカー環境は恵まれてきていると思います。J-GREEN堺にしても建設当初は広大な敷地に16面もある芝生フィールドを果たして使う人は本当にいるのか、という議論もありましたが現在は、おかげさまで老若男女で賑わっています」

今後の展望は?
「そうですね。芝生グラウンドの話がでましたが、まだまだ足りないと思っています。大阪府下には43の市町村があります。子供達のこと、特に交通の便を考えると各市町村にひとつは人工芝のグラウンドを作りたいと思っています。すぐにできるようなことではありませんがスポンサーの御支援も頂戴しながら、進めていきたいと思っています。現在、吹田市、四条畷市、泉佐野市に既に完成しています」

ご尽力の賜物ですね。
「子供達のためにと、ご理解とお願いに回っています。わずかずつでもたくさんの方から御支援を頂戴してなんとかグラウンドを増やしていきたいと思っています」

“世界基準”がキーワード。

W杯で上位に入ることは日本サッカー界に於いて、ひとつの目指すべきモノサシになると思います。選手育成の面ではいかがですか。
「端的に言うと世界基準の選手を育成することが課題です。一朝一夕には世界基準の選手は育ちません。ですからアンダーカテゴリーの頃からしっかりと育てなければいけません。その取り組みのひとつとしてJ-GREEN堺に女子中学生対象の『JFAアカデミー堺』を立ち上げています。現在6期生まで育っています。選手はJ‐GREEN堺に併設した宿泊所で寝起きをしながらトレーニングを行うサッカー専門アカデミーです。中学1年生から3年生まで総勢36名の選手が在籍しています。現在、私がスクールマスターをさせていただいています。中学生という年代の特性上、保護者からお預かりすることは大変な面もあります。また義務教育課程でもあり、ウイークデイは宿泊所からJ-GREEN堺の最寄りの中学校へ通学してもらいウイークエンドは自宅へ帰省するシステムをとっています。私が特に大事だと考えているのは食生活だと思っています。寄宿しながらきちんとした食事を摂り、団体生活を行うことで規律のある人間が形成されます。サッカーは団体競技ですので将来、必ず役に立つと思っています」

世界に基準を置いたすばらしい仕組みですね。
「ありがとうございます。もうひとつは個人的な見解になってしまうかもしれませんが、世界と比較して日本サッカーのあまり強くない部分はセンターラインだと思います。ゴールキーパー~センターバック~センターフォワードの幹となるラインです。私はゴールキーパー出身ですので大阪でキーパーを育成してみようと考えました。2017年から『OFA GKアカデミー』として募集を開始しています。長身の中学生3年生を選考対象として高校時代の3年間をかけて優れたゴールキーパーを育成するプロジェクトです。高身長の子供は、バレーボールやバスケットボール、野球など、他のスポーツに入ってしまいがちです。ですから他のスポーツから声がかかる前にゴールキーパーに特化した育成プロジェクトの存在を知って頂き、サッカーに興味を抱いてもらえたらと思います。ゴールキーパー専門のコーチが少ないのも実状です。時間はかかるかもしれませんが優秀なゴールキーパーを輩出できればと思っています。あの大谷翔平選手がサッカー選手だったらと関係者と会話することがよくあります。まだまだ手探りではありますが世界基準へもっていくためには語学も必要になってきますのでヨーロッパでの経験も積ませたいと考えてもいます。こうした大阪府サッカー協会の取り組みが各都道府県のサッカー協会に波及すればボトムアップになり、世界基準の選手育成に繋がるではと思っています」

一貫した指導、育成体制の構築にはご苦労があったと思います。
「そうですね。日本は連続してW杯に出場していますが1次リーグに出場できるだけでは、まだまだだと思っています。ロシアの地でW杯を観戦しながら思っていましたがJFAと地方が一丸となって、もっとサッカー界を盛り上げて行きたいと思っています。そのためにも子供達が『JFAアカデミー堺』や『OFA GKアカデミー』にどんどんチェレンジしていただければと思っています」

【各アカデミーのお問い合わせ】
JFAアカデミー堺 http://www.jfa.jp/youth_development/jfa_academy/sakai/

OFA GKアカデミー
http://osaka-fa.or.jp/gk-training-project/

裾野を広げ、指導者を育てることが大切。

指導者育成の面ではいかがですか。
「指導者の育成は全国的にも大阪府サッカー協会としても推し進めています。具体的には指導者のライセンスを取得していただくことを勧めています。ボトムアップという意味でライセンスをもった有資格者が教えるのと無資格者が教えるのでは意味合いが異なってきます。フィジカル面だけではなくメンタル面への配慮も必要ですから。たとえば中学校の教職員を対象に講習会参加を促しています。女子の場合、小学校にはサッカー部はあるものの中学校には女子サッカー部がない地域が大半です。この対策としても有効だと思っています」

裾野を広げる取り組みもされているようですね。
「ファミリースクールやお母様対象のサッカースクールなどを開催して門戸を広げ、サッカーに親しんでいただいています。サッカーの良いところは誰でも気軽に楽しめるところです。保護者は観戦するものというのではなくて、一緒に楽しめる環境をお作りしています」
 大阪府サッカー協会の活動もあり、サッカー人口は増えてきています。
「アンダーカテゴリーにおいては野球人口を抜いていると思いますし、チーム数も増え続けています。サッカーの特性としてボールひとつあれば、プレーできるという部分が大いにあると思いますし、世界的なスポーツですからね。一方でラグビーは来年、日本でW杯が行われます。我々も楽しみにしています。大きな意味でスポーツというものを文化として位置づけを図らないといけないと思っています。スポーツは立派な社会人を育てるという面で有効ですし、文化になれば企業も文化振興という面で今よりもっと投資をしていただけると思います。そのためには異種競技間の連携も必要だと思っています」

いろいろ貴重なお話をお聞きできて嬉しかったです。最後に大阪のサッカーファンに向けてメッセージをください。
「W杯を観ていただいているので、ある程度、感じられていると思いますが1次リーグを突破する自力は付いてきていると思っています。ただ、岡田武史、元日本代表監督ともよく話をしますが1次リーグを勝ち抜くのと決勝トーナメントを勝ち抜くのでは次元のちがう能力を要求されます。そのためにはJリーグの努力、JFLの努力、各都道府県の協会の努力が必要になってきます。その上で、サッカーをしている子供達、あるいはこれからサッカーを始めようと想っている子供達には是非、“夢を持ってください”という言葉を贈りたいと思います。プロで活躍している選手の多くは子供の頃から日の丸を背負いたいとか海外でプレーをしたいなど幼い頃から夢を持っていたと、よく聞きます。目標を持てば、それを成し遂げるための階段が見えてきます。そうなれば、大阪府サッカー協会としても縁の下の力持ちとして全力で応援をしていきます」

赤須 陽太郎 氏
明星高等学校から早稲田大学を経てヤンマー。ポジションはゴールキーパー。元日本サッカー協会副会長。

Text by Naoki TERASAKI

Michio Kii

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