「好き」を仕事に。もっと、サッカーの魅力を伝えたい。

株式会社ダイシンコラボレーション 代表取締役社長

吉田 匡廣 さん

Jリーグクラブのグッズやノベルティの企画制作からスタジアムイベントの企画運営までハードワークする会社が大阪にある。「印刷だけじゃない」印刷会社、株式会社ダイシンコラボレーション。「クラブの誇りを背負い、ファン・サポーターにハッピーを演出できる<いいもの>をつくるのが、私たちの仕事です」。ご自身もサッカーを愛してやまない代表取締役社長の吉田匡廣氏に、スポーツビジネスにかける思いをうかがった。


地元ヴィッセル神戸からスポーツビジネスが始まった。

――いつ頃からサッカーに興味を持たれたのですか?

サッカーとの出会いは、小学生の頃に読んだ「キャプテン翼」です。Jリーグ開幕はまだ遠くサッカー自体も今ほど盛り上がっていなかったけれど、早速、通っていた学校のサッカークラブに入りました。当時は「イレブン」というサッカー雑誌があって、情報はもっぱらその雑誌から。テレビ中継もほとんどなかったけれど、UHFで放送していた「三菱ダイヤモンドサッカー」は夢中で見ていました。1985年トヨタカップのプラティニは素晴らしかった。86年ワールドカップアジア最終予選、木村和司さんのフリーキックは忘れられない。ワールドカップメキシコ大会もテレビで観戦しました。当時私は中学生。あの頃からどんどんサッカーにはまっていきました。

 

――そして、1993年にJリーグ開幕です。

当時私は大学生でした。日本サッカーリーグの頃からずっと見てきたから、本当に夢のようでした。スタジアムにも行きましたよ。神戸に住んでいたので、神戸総合運動公園ユニバー記念競技場で開催された最初の試合に行きました。ガンバ大阪vs名古屋グランパスエイト。私の地元神戸にあった御影工業高校(現神戸市立科学技術高校)出身の永島昭浩選手がハットトリックの活躍で盛り上がりました。ヴィッセル神戸が誕生したのは1995年、震災の年。まだJFLだったけれど、地元にサッカークラブができたのは嬉しかったです。

 

――スタジアムにはよく行かれてたんですか?

よく行くようになったのは、社会人になり今の会社で働くようになってからです。Jリーグの試合、特にヴィッセル神戸はシーズンシートを買ってホームゲームのたびにスタジアムに行っていました。それで、スタジアムに行くとマッチデープログラムや抽選会のチラシなどいろいろな印刷物をもらうんです。私が働いていたのは曽祖父のころから続く印刷会社なので、無意識に印刷物に目がとまるんですね。その頃はまだ具体的ではなかったけれど「いずれサッカーに関わる仕事がしたい」と思いました。

 

――その思いが現実になったきっかけは何でしょう。

きっかけは、ヴィッセル神戸のイヤーブックに掲載していた「サポートファミリー」です。企業や店舗の協賛を募るもので、登録すると自社の広報物などに応援マークを使えるなどの特典※があります。弊社は印刷事業が中心ですが、当時は飲食事業として神戸の宅配寿司店を経営していたので、その折込チラシに「ヴィッセル神戸サポートファミリー」というマークを入れたらどうかと思いつきました。クラブに問い合わせると、営業の方がわざわざ会社まで来てくださったんです。そこで初めてクラブの方と知り合うことができました。これがご縁でサッカーに関する印刷物を提案させてもらえるきっかけとなりました。

※登録特典などサポートファミリーの詳細はクラブにお問合せください。

 

――どんな「印刷物」をご提案されたんでしょうか。

その時に提案したのはスケジュール帳でした。実は、私は自分の手帳にいつも試合日程を手書きしていたんですが、これが結構面倒で(笑)。「最初から印刷してあったら便利なのに…」と思っていたんです。それで、あらかじめ試合日程が印刷されているスケジュール帳を提案しました。表紙はヴィッセル神戸のユニフォームのデザイン。好きな選手の背番号を選べたらテンションも上がるでしょう。サポーターマインドと弊社のオンデマンド印刷機の「多品種・小ロット」という特性を活かした提案でした。これが「ひと工夫ある」と好評で、ヴィッセル神戸さんとの仕事がスタートしました。

本社のショールーム。これまで制作したグッズやノベルティは多岐にわたる。

 

プロスポーツクラブに求められる商品力。

 

――スタジアムでサポーターが振っているヴィッセル神戸応援フラッグも制作されているとか。

2013年の「J1復帰応援フラッグ」の制作を依頼されたのが最初でした。来場者に応援フラッグを配布して、昇格を目指す選手たちを後押ししようという計画です。依頼されたのは3試合で配布する数万本のフラッグで、200本1ロットで協賛企業の名前を印刷するというものでした。フラッグ制作の経験はなかったのですが、チャレンジするのに迷いはありませんでした。スケールが大きい分だけ責任も大きいけれど、チームやサポーターの役に立つなら本望です。実際に、自社で作ったフラッグがスタジアムを埋め尽くし選手を後押しする風景は感動的でした。後にヴィッセル神戸の北本選手とお話する機会があったのですが、スタンドを揺るがすようなフラッグでの応援は本当に嬉しいですとお話くださいました。今思うとこの仕事が、弊社がスポーツビジネスを展開する大きなきっかけになったと思います。そこから次々に仕事の依頼が来るようになりました。

 

――現在では他のクラブさんともお取引されていますね。

Jリーグには「みんなでリーグを盛り上げよう」という精神があって、お取引しているクラブの方が他のクラブの担当の方をご紹介してくれました。ファン向けのグッズやノベルティはクラブごとに商圏が独立しているという事情もあります。おかげさまで今では多くのクラブさんとお取引しています。スケジュール帳やユニフォーム型うちわなどすでにある商品を気に入っていただいてカスタマイズするケースもありますし、こちらから新製品をご提案する場合もあります。また、クラブさんのほうから「こんなものを作りたいのですが」とご相談いただく場合も少なくありません。ベガルタ仙台さんの「パラパラメモ帳」は、クラブさんから「できませんかね?」とご相談いただきました。ページをパラパラとめくるとクラブマスコットが踊って見えるように、すべてのページに異なる写真を印刷したメモ帳です。

 

――クラブさんに合わせて柔軟にお仕事されていらっしゃるんですね。

そうですね。川崎フロンターレさんは面白い取り組みをたくさんされていて、私たちもいろいろと勉強させていただきました。中でも選手ポスターをくじ引きで選ぶ「ポスターガチャ」は好評で、他のクラブさんでも展開させていただいています。横浜Fマリノスさんは、グッズ制作をきっかけにいろいろな部署の方とお付き合いさせていただくようになりました。セレッソ大阪さんはファンクラブ関連のお仕事が多く、入会特典や限定イベントなどで配布するポスターやカード、ステッカーなどを制作しています。そしてジュビロ磐田さんでは、グッズの制作だけではなくホームゲームでのイベントブースの企画・運営もしています。スタジアムイベントって、来場者に企業や商品をPRできるチャンス。地域密着のJクラブのスタジアムは、その地域でビジネスを展開する企業にとっての「プラットホーム」でもあるんです。ジュビロ磐田さんの場合は、女性サポーター向けにエステ体験やプレゼントなどを行っています。今年で3年目、企業さんにも来場者の方にも喜んでいただいて、すっかり定着した感じですね。先日、担当の方と話していて「来年もやりますか?」って聞いたんです。「もちろんやるよ。ずっとやるよ」って。

多品種小ロット、バリアブルプリントも可能なデジタル印刷機。ポスター、ファンクラブカード、チケット印刷などさまざまなニーズに対応できる。

 

印刷の力でもっとスポーツを盛り上げたい。

 

――ダイシンコラボレーションさんの商品がさまざまなクラブさんに受け入れられている理由は何でしょうか。

常にスタジアムに足を運んでいるからではないでしょうか。どんなグッズやノベルティが喜ばれるかを「ファン・サポーター目線」で考えています。また、自分たちが作った製品の反応もチェックしています。グッズやノベルティもシーズンごとのレベルアップが求められるから、スタジアムで得た情報は新たな商品づくりの参考になるんです。それに、スタジアムはクラブ様にとって一番大事な「現場」なので、現場を知ることで課題や目標も共有できます。よく「ダイシンさんの商品は、ひと工夫あっていいですね」とお褒めいただくのですが、それは私たちが現場をよく見てまわっているからだと思います。何より私自身がいちサポーターですから、自分がほしいものを提案してつくりたい。おかげさまで今では試合のたびに全国のスタジアムを訪問しています。

 

――「印刷会社」という枠を超えたお仕事のように感じます。ダイシンコラボレーションさんがそういったスポーツビジネスに取り組む意義は何でしょう。

印刷って、お客様だけのオリジナルをつくることができるし、世の中に何かしらの影響を与える力があるんです。たとえば、何の変哲もない無地の旗でも、ヴィッセル神戸のエンブレムやクラブカラーを印刷するとヴィッセル神戸だけのオリジナルグッズになりますね。それをファンやサポーターに渡すことで双方につながりが生まれます。試合中にみんなでフラッグを振ってスタジアムを盛り上げることもできるし、選手を鼓舞することもできる。初めてスタジアムに来た人がいたとしましょう。試合後に持ち帰ったフラッグは、家のどこかに飾られるかもしれない。ある日テレビでサッカーのニュースが流れて「そういえば試合見に行ったな」「今日の試合は勝ったかな」と思うでしょう。「またスタジアムに行ってみようかな」。そうやって新しいファンは生まれるんだと思います。印刷にはそのような力があります。人を楽しませる力。人とクラブをつなぐ力。サッカーやクラブのことをもっと知ってほしい、もっと好きになってほしい。だから、ダイシンコラボレーションはスポーツビジネスに取り組むんです。クラブの誇りを背負い、ファン・サポーターにハッピーを演出できる「いいもの」をつくるのが、私たちの仕事の意義であり魅力だと思っています。

2018年6月、東京国際フォーラムで開催された展示会「SPORTS ENTERTAINMENT TRADE SHOW 2018」でもさまざまなクラブから注目された。

 

すべての「ファン」にハッピーを届けたい。

 

――これからの展望を教えてください。

実は昨年、協力会社さんの紹介でBリーグの千葉ジェッツさんと商談する機会がありました。これまで作ったJクラブの商品をお見せすると「これいいね」「うちでも作りたい」と採用していただいたんです。私たちの商品がサッカー以外のスポーツにも展開できるかもしれない。そこで今年6月、さまざまなプロスポーツクラブが集う展示会に出展を決めました。実績としてJクラブ向けの商品を主に展示しましたが、プロ野球やVリーグなど他の競技のチームからも問合せいただくようになりました。

 

――可能性はどんどん広がりそうですね。

「ファン」のいる世界はスポーツだけにとどまりません。そう考えるとビジネスの可能性はさらに広がります。私の好きな「キャプテン翼」や「FCバルセロナ」にも商品提案ができるかもしれない。漫画やアニメなど多くのファンを魅力する世界での仕事もきっと楽しいでしょう。これからも「夢」や「憧れ」をかなえられる仕事をしていきたいですね。

 

株式会社ダイシンコラボレーション

大阪市中央区備後町1-4-9シークスビル1F

http://daishin-inc.co.jp

創業明治42年。創業109年。お客様とのコラボレーションを大切にした企画提案力と、多品種・小ロット・スピード化に対応できる最先端のデジタル印刷機を活かし、ブランディングやプロモーションなどお客様のさまざまなコミュニケーション活動をサポート。多彩なプリントサービス、スポーツビジネス活性化支援、ソリューション開発など、「印刷」を礎に「印刷」を超えたサービスをご提供します。

営業種目:マーケティング、企画・デザイン制作、DTP制作、商品・ノベルティ開発。商業印刷全般、デジタル印刷・バリアブルプリント、WEB・ホームページ関連事業。

 

 

Michio Kii

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