どこにいても、よそ者だと感じてしまう──。そんな若者たちを描いた映画『よそ者の会』が6月24日(火)にテアトル梅田で上映されます。
インディーズ映画の登竜門として知られる第18回 田辺・弁慶映画祭」でキネマイスター賞を受賞し、3月に開催された「第20回 大阪アジアン映画祭」のインディ・フォーラム部門にも選出された本作。監督・脚本を手がけたのは、これが劇場映画デビュー作となる西崎羽美さん。現在、日本大学大学院芸術学研究科で映画を学ぶ西崎監督に、『よそ者の会』制作の経緯や映画に込めた想い、これらから撮ってみたい映画など、さまざまなお話をうかがいました。
この世にいる、すべての人が「よそ者」だと思う。
―― 映画『よそ者の会』を制作する経緯を教えてください。
大学院への進学のために制作した作品です。大学を卒業するタイミングだったので、これまでの学生生活を振り返ってみたところ、大学での思い出がないことに気づきました。というのも、私が大学に入学したのはコロナウィルスが大流行したタイミング。最初の1・2年はオンライン授業ばかりで、大学に行く機会があまりなかったのです。思い出がないのであれば、つくればいいと思って、大学を舞台にした映画にしようと決めました。
―― 自身の大学生活の経験が反映されているのですね。テーマはどのように決めたのでしょうか?
もともと、「コミュニケーションの咀嚼」というテーマに関心があったんです。自分の意図とは違う受け取られ方をすることがこれまでにも多くて、それを映像で表現できないかと考えました。そこから、「よそ者の会」というアイデアが生まれました。
―― 「よそ者」という感覚は、誰しも一度は抱くものだと思いますが、その捉え方は人それぞれだと思います。監督ご自身は、どう考えていますか?
とてもむずかしい質問ですね。極論をいったら、「この世にいるすべての人がよそ者」だと思っています。私たちは家庭、職場、地域など、さまざまなコミュニティに属していて、それぞれの場に合わせて自分を変えている。その姿が本来の自分と違っていると、ズレが生じて、「よそ者」だと感じる瞬間が出てくると思うんです。結局は、自分からよそ者になってしまっているところもあるのですが、そのこと自体はとても普遍的なものなのではないでしょうか。とはいえ、あらためて“よそ者とはなにか?”を考えるとむずかしいですね。
―― 映画を観た人も、それを考えるきっかけになると思います。この『よそ者の会』というタイトルは、最初から決まっていたのですか?
「よそ者の会」は作中でメンバーが集まる会合の名前なのですが、最初から決まっていたわけではありません。影響を受けたのが、角田光代さんの『だれかのいとしいひと』という短編集。そのなかに「転校生の会」という一遍があって大好きなんです。転校生って、まだそこに属していない“よそ者”のような存在です。そこから、「よそ者の会」と名づけました。

撮影では、自分のやりたかったことを反映できた。
―― 撮影はどのように進んだのでしょう。
10人弱のスタッフと、5日間で撮影しました。小規模な部隊だし、ナイターもなかったので、割と余裕をもって撮影できました。ロケ地は、私の母校です。大学院入試のために映画を撮りたいと申請したら、すんなりOKをもらえました。
―― 思い出に残るシーンはありますか?
大きな教室の机の上を歩くシーンがあって、私はすごく気に入っています。もともとの脚本では座って芝居をする予定だったのですが、もっと“教室全体を活かせる動きができないか?”とずっと考えていました。クランクイン前に、通っている映画美学校で塩田明彦監督の講義があったんです。そのなかで監督ご自身が手がけた映画『害虫』を解説されていて、男の子と女の子が工場の屋上を歩くシーンが紹介されました。塩田さんのそのシーンの演出について聞いていくなかで、本作の教室のシーンでも使えるなって思いました実際の撮影で試してみたら、すごくしっくりきて。映像として観たときも、緊張感があっておもしろい画が撮れたなと思っています。
―― 監督がイメージしていた映像が撮れたのですね。
そうですね。自分がやりたかったことが反映されている映像が撮れたと思います。ただ、ストーリーの組み立てはすごくむずかしかったです。キーアイテムとして「爆弾」が登場するのですが、それを登場人物たちとどうリンクさせていくか、かなり悩みました。
―― 爆弾というのはインパクトのあるモチーフで、「よそ者の会」のメンバーにも大きな影響を与える存在です。
爆弾は、「よそ者の会」という居場所そのものを壊してしまう恐れがあります。実際に爆発させたあとのことを、登場人物たちがどれだけ想像できているのか? そこをどう描くかがむずかしかったです。
映画づくりでも、脚本を書いている段階はすごくおもしろいと感じていても、実際に撮ってみると“なんか違う”と感じることがあります。そういう違和感やズレのようなものを爆弾というアイテムを使って表現できたらいいなと考えて、ああいう終わり方にしました。
―― ラストをどう締めくくるのか気になっていたので、「こうきたか」と思いました。
正直にいうと、終わらせ方の正解が全然わからなくて……。いろいろな人に脚本を見てもらっても、「ここで終わるの?」という意見が多かったです。実は、リメイク版ではエンディングが違っています。
―― リメイク版があるのですね。
今回、大阪で公開される『よそ者の会』は、2023年に大学院入試用として制作した作品です。私は大学と並行して、映画を学ぶ「映画美学校」にも通っていて、リメイク版はそこの修了制作。修了制作はその期のなかから2人だけが撮れる仕組みで、本作の脚本が選ばれました。
リメイク版では、助成金を受けられたのと、クラファンを実施したおかげで予算が10倍ほどに増えています。内容としては実験的ですが、商業映画のようなスタイルで撮影し、よそ者の会のメンバーも当初の3人から5人に増えています。
―― そのリメイク版もそのうち公開される予定ですか?
リメイク版は、ようやく完成したところです。まだ決まっていませんが、公開できたらいいなと思っています。

テアトル新宿の最終日は、立ち見がでるほどの盛況に。
―― 西崎監督ご自身について教えてください。現在は大学院で、日本の非商業主義的な映画について研究されているとか。
はい。研究対象はATG(アート・シアター・ギルド)で、現在は『肉弾』や『近頃なぜかチャールストン』など岡本喜八監督の作品に絞って修士論文を書いています。
―― 本作には、そうした日本のアート映画の系譜を感じる部分もあります。ご自身では影響を意識されていますか?
自分では、それほど影響を受けていないつもりでした。でも、観てくださった方から「昔の日本映画を観ているようだ」とか、「不穏な雰囲気の映画ですね」と言われることが多くて。あらためて観返してみると、人物の動かし方などに影響がでているようにも感じます。
―― 3月に『第20回 大阪アジアン映画祭』で、5月にはテアトル新宿で上映されています。ご自身の映画を劇場でご覧になった感想はいかがでした。
おもしろかったです。でも、それ以上に不安が勝りました。宣伝も自分でやっていたので、どれくらい人が入ってくれるのかもわかりませんでしたし。周囲の人からは「インディーズにはインディーズの戦い方がある」といわれましたが、「具体的にどう戦えばいいのか」は誰も教えてくれなくて……。本当に手探りの状態でした。
そんな状態でしたけど、テアトル新宿の最終日の上映が満席で立ち見もでました。「自分の映画のために、これだけの人が劇場までわざわざ来てくれた」という事実はすごく大きなことで、とても励まされました。「また、映画を撮りたい」と純粋に思えましたね。
―― 西崎監督は来年、大学院をご卒業とのことですが、その後の進路は?
すでに就職が決まっていて、そこは映画も撮れる会社です。ゆくゆくは映画を撮りたいのですが、今はあまり急がないでおこうと考えています。映画をつくるためにも、社会を観ておく必要があるので、いろいろな人と出会って、いろいろな体験をして。それを映画づくりに還元できたらいいなと考えています。
―― いつか撮ってみたいテーマはありますか?
『よそ者の会』とまったく違うジャンルですけど、SFものを撮ってみたいです。昔からジョン・カーペンター監督、デヴィッド・クローネンバーグ監督の作品や、『エイリアン』などSFやホラーが大好きで、最近はApple TVで配信されている『セヴェランス』にハマっています。いつかああいう作品をつくってみたいですね。
―― 楽しみにしています! 映画『よそ者の会』は、6月24日(火)にテアトル梅田で上映されます。最後に、大阪のみなさんへメッセージをお願いします。
『大阪アジアン映画祭』での上映会には行けなかったのですが、今回は舞台挨拶をする予定です。大阪で自分の映画を上映してもらえる機会はそうそうないと思うので、現地でみなさんに観ていただけるのをとても楽しみにしています。そして、名前だけでも覚えて帰ってもらえるとうれしいです。
『よそ者の会』は、不器用な人たちが集まった会のお話です。その人たちの様子をあたたかく見守っていただけたらいいなと思っています。

映画『よそ者の会』
2025年6月24日(火)、田辺・弁慶映画祭セレクション2025内の作品として、
テアトル梅田で上映。