映画『兄を持ち運べるサイズに』舞台挨拶「一生懸命に生きている姿がちょっと滑稽でおかしい家族を描いた」

『湯を沸かすほどの熱い愛』『浅田家』で〝家族“の姿を描き続けてきた映画監督・中野量太。中野監督が5年ぶりの新作に選んだのは、作家・村井理子さんのノンフィクションエッセイ「兄の終い」です。

疎遠になっていた兄の急死により、バラバラになっていた家族が集結。兄の人生の後片付けでさまざまな事実と直面する数日間の実話を、『兄を持ち運べるサイズに』として映画化し、2025年11月28日(金)より全国公開されます。

公開に先駆け、トークショーつき先行公開が東京と大阪で実施されることが決定! 11 月23 日(日)にTOHOシネマズ梅田で行われた上映には、原作者・村井理子さん、中野量太監督に加えて、突然亡くなった兄を演じたオダギリジョーさんも駆けつけ、それぞれの言葉で本作への想いを語ってくれました。

 

中野監督の脚本は、笑えて、泣けて、おもしろい。

11月28日の公開を目前に控えた舞台挨拶である今回。最初にあいさつをしたオダギリジョーさんは、朝からの上映に駆けつけてくださったお客さまに感謝を伝えたのちに「先行上映ということは、どんどん感想を広めてほしいということですよね? みなさん、そういう意識をもって帰ってくださいね」とまず呼びかけます。

つづいてマイクをもった原作者の村井理子さんは「(舞台挨拶をするのが)はじめての機会で緊張しています」と打ち明け、MCから「大阪のお客さまはとてもあたたかいですよ」と声をかけられると「良かったです」とホッとした表情になります。

京都出身の中野量太監督は「大阪は地元みたいなもの。仲間たちも何人か見に来ています」笑顔で会場を見回し、さらに「村井さんと最初に会ったのはけっこう前。それからやっと一本の映画になって、みなさんに観てもらえることをとてもうれしく思っています」とあいさつしました。

 

あいさつ後は、トークショーがスタート。MCから映画化のきっかけを質問された中野監督は「プロデューサーから〈こういう本があるけど〉と誘われて、読んでみたら、兄が亡くなる話なのにクスッと笑っちゃったし、熱い思いにも、やさしい思いにもなった。これまでやってきた映画と方向性が似ていて、ぼくがやったらおもしろくできるんじゃないかと思ったのが最初です」と本作のはじまりを披露。

その映画化の話を聞いた村井さんは「映像化されるというのは、書き手にとってすごくうれしいこと」としつつも、「地味に書いていただけだったので、(映像化)はあまりに遠い話。最初はとまどいましたが、うれしかったです」と当時を振り返ります。

「とても良い本だったので、すぐに監督にメッセージを送りました」と明かすオダギリさんは、脚本を読んで出演を即決したそう。

2016年に公開された『湯を沸かすほどの熱い愛』でもタッグを組んでいる中野監督については、「頻繁に会っているわけではない」としつつも、「歳が近いし、わかり合える気がしているので信用しています。監督が書く脚本は、チープな言い方になりますけど、“笑えて泣ける”おもしろい本が多い。参加するのが、楽しみでした」と打ち明けてくれました。

映画『兄を持ち運べるサイズに』先行公開記念舞台挨拶でのオダギリジョーさん

 

実兄と見た目は違うのに、びっくりするくらい雰囲気が似ている。

オダギリさんが演じるのは、村井さんのお兄さん。実在する人物を演じるうえで取材や研究をしたのかと問われたオダギリさんは、村井さんと事前に話せる機会があったにもかかわらず、あえて断ったことを告白します。「今から演じる人の答えを先に見せてもらいたくないっていうか。(村井さんを前にして)失礼なのですが、原作もあえて読まず、監督が書かれた脚本だけを信じたいんです。映画は監督との作業だと思っていますから」と理由を述べます。

中野監督もそのスタイルを理解しており、「ぼくが村井さんにたくさん話を聞いて脚本に反映させていたと思うので、それを信じてやってくれました。だからこそ、あの役ができたし、それを観た村井さんから〈本当のお兄さんみたい〉といってもらえたのは、とてもうれしかった」と喜びます。

映画を観た村井さんは「もちろん見た目は違うのですけど、お葬式やスーパーのシーン、部屋で履歴書を書いているところとか、びっくりするくらい(実兄と)雰囲気が似ていて、すごいと思いました」とオダギリさんの演技を絶賛。それを聞いたオダギリさんは「偶然で、まぐれ。当たっただけの奇跡。でも、うれしいですね」と笑顔を見せました。

本作の脚本は原作が6割、村井さんへの追加取材が2割、オリジナル2割という割合で制作されているそうで、中野監督はその苦労について「文字と映像は別物で、原作本のママというのはむずかしいんです。村井さんには〈大切な部分はちゃんとブレさせずにやりますから〉とお話しました。それに、村井さんに追い取材をしていたら、原作にないおもしろいエピソードがいっぱいでてきた。そこに、オリジナルの要素を入れて作り上げました」と説明します。

そのうえで悩んだのが兄の表現だったそうで、「原作でお兄ちゃんはすでに死んでいて出てこないわけです。お兄ちゃんをどういう風に出すのか? が悩みだったのですが、主人公は作家だから、“作家の頭のなかで文字を書いて、そこから人が見える”というのがいけるなと。映画的な表現としてもおもしろいなと気づいて、そこからはバッーと脚本が書けました」とつづけました。

とはいえ、主役である理子の回想でしか登場しない兄を演じるのは簡単ではありません。オダギリさんが「理子のイメージでしか出てこないので、キャラクターに幅がありすぎる。どうにでも演じられてしまうから、逆に恐いんです」と告白すると、中野監督も「とくに最後のシーンはむずかしかったと思う」と共感。そのうえで、「そのシーンが撮りたくて本を書いた」とも語り、完成したシーンへの満足感もうかがわせました。

映画『兄を持ち運べるサイズに』先行公開記念舞台挨拶の様子

 

家族というものがあんまりわかっていないから、家族を描く。

『湯を沸かすほどの熱い愛』『浅田家!』と、家族の姿を描き続けてきた中野監督。本作もそれは同じだといいます。「家族の死を描いているけれども、残された人たちが、その死を受けてどう生きるかっていうことをぼくはやりたかった。この“一生懸命に生きている姿がちょっと滑稽でおかしい”という方向性は、(これまでの作品と)似ている部分はあるのだろうなと思っています」。

その言葉を受けた村井さんは、「私も家族を描くことが多い。それはなぜかというと、家族というものがあんまりわかっていないから。〈家族とはなんなのだろう〉っていうものを、ずっと探していくカタチとしては、もしかしたら監督と同じような気持ちをもっているのかもしれません」と答えました。

つづいてMCは「この映画に携わったことで心境の変化はありましたか」と質問します。

村井さんは、「私が一番好きで、感動したのは、スーパーで生まれついての家族が大集合するシーン。それを観たときに〈こうやって集まることができるんだ〉と思いました。本来は無理でも映像の世界では集まれて、安心感につながった。今でも亡くなった父と母のことを考えるときは、そのシーンが出てきます。それが、(この映画に関わったことで生まれた)変化かもしれません」と語ります。

そんな村井さんのご家族の物語を映像化した中野監督は、家族の姿を映画にするこだわりとおもしろさを改めて教えてくれます。「なんで家族を撮っているかというと、先ほどおっしゃっていた村井さんといっしょで〈家族とはなにか〉という答えがわからないから。でも、今回だったら村井家、前回だったら浅田家、その家にとっての答えらしいものってきっとあると思います。家族ごとに違うのがわかっているから、毎回家族を撮っても毎回新鮮。今回もすごく新鮮な感覚で撮れたので、〈家族っておもしろいな〉と改めて思えました」。

映画『兄を持ち運べるサイズに』先行公開記念舞台挨拶での村井理子さん

 

この映画は、5年ぶりに撮った自信作です。

マスコミ向けへのフォトセッションを挟み、最後は登壇者3人が来場者にあいさつ。まず村井さんが「今日はありがとうございました。映画のほうも宣伝をお願いします」とお礼とお願いを伝えます。

つづくオダギリさんは、ムービー用のカメラに手を振るシーンで観客もいっしょに手を振ってくれたことにふれ、「みなさんが手を振り返してくれた光景をはじめて見ました。すごく感動的で、カメラに向かって手を振る意味がわかった気がします。もうすぐ50歳なんですけど、ちょっと成長できました。ここに来ていただいたみなさんのおかげです。ありがとうございました。そしてこの作品も、みなさんの愛情をもって、いろいろなところで広めていただけると幸いです」とコメントします。

トリを務めた中野監督は、「映画は長い旅です。この映画も企画からはじまって、やっと出航します。みなさんは最初のお客さま。勢いよく、わぁ〜と広めてもらえると、この映画は幸せになると思います。ぼくとしても、この映画は 5 年ぶりに撮った自信作です。今日観て感じたことを、いろいろ広めてもらえればうれしいです。どうぞよろしくお願いします」との想いを届け、舞台挨拶を締めました。

映画『兄を持ち運べるサイズに』先行公開記念舞台挨拶での中野量太監督

 

映画『兄を持ち運べるサイズに』

2025年11月21日(金)から、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、TOHO シネマズ西宮OSなどで公開。

公式サイト:https://www.culture-pub.jp/ani-movie/

© 2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

masami urayama

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