映画『ポンヌフの恋人』 90年代の無防備な美しさと痛みが、美しい映像で甦る。

パリ、ポンヌフ橋。孤独を抱えたふたりの若者が出会い、ぶつかり合い、激しく愛し合う─── 1991年に公開されたレオス・カラックス監督の名作『ポンヌフの恋人』が、4Kレストア版となってスクリーンに帰ってきました。2025年12月20日より全国公開され、大阪は12月26日(金)からテアトル梅田にて上映中です(※2Kコンバート上映)。

無防備でむきだしの感情、身勝手で無垢な愛、世界とうまく噛み合わない若さ──。レストアによって美しく蘇った、あのころの輝きと痛みを、ぜひ映画館で体験してください。

 

激しく、危うく、愛おしい─── 孤独なふたりの究極の愛。

物語の舞台は、修復工事中のパリ・ポンヌフ橋。天涯孤独で不眠症の大道芸人アレックスと、失恋の痛手に加え、眼の奇病による失明の危機から家出した画学生ミシェル。社会からこぼれ落ちたふたりはホームレスとなり、パリでもっとも古い橋・ポンヌフで出会い、強く惹かれあっていきます。

しかし、この映画は、心がときめくような甘い恋愛を描きません。彼らの愛は無垢であると同時に残酷で、身勝手。愛によって救われながら、相手も、そして自分自身も傷つけてしまう危うさをはらんでいます。カラックス監督は、その不安定さを真正面から描き、ときに観る者の共感を拒絶します。美しいだけではない、清濁併せ呑んだ激しく痛いものだからこそ愛おしく、心に残るのだと思います。

なかでも強く印象に残るのが、夜の橋を舞台にした花火のシーンです。祝祭のように打ち上がる光のなかで、ふたりは束の間の自由を謳歌。しかし、その輝きが永遠ではないことを、私たちはどこかで感じ取っています。未来のないふたりの享楽に、なかば呆れながらも、同時に胸を締めつけられるのです。

映画『ポンヌフの恋人』の一場面

90年代にこの映画を観た方であれば、スクリーンの向こうに、かつての自分自身を見出すかもしれません。モヤモヤとした不安と根拠のない自信、誰かとつながりたい気持ちと、つながってしまうことへの恐れ───。『ポンヌフの恋人』は、そうした“青春の痛み”と、もう一度向き合わせてくれます。

とはいえ、今回、4Kレストアによって美しく甦った本作は、決して懐かしさに浸るためだけの映画ではありません。激しくぶつかるしかなかった孤独なふたりの恋愛は、いま観ても色褪せることなく、鮮烈に映ります。その行方を、ぜひスクリーンで見届けてください。

 

 

『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』『ポーラX』も! カラックス作品を連続4Kレストア上映。

今回の『ポンヌフの恋人』を皮切りに、レオス・カラックス監督の初期作品が、4Kレストア版で連続公開されます。
上映されるのは、『ポンヌフの恋人』をはじめ、『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』、そして『ポーラX』。20代前半から「ゴダールの再来」と称された若き日のカラックス作品をスクリーンで体感できる、貴重な機会となっています。

これらの作品に共通しているのは、社会の枠組みからこぼれ落ちながらも、必死に生きようとする若者たちの姿です。その不器用さや危うさは、時代が移り変わったいまも観る者の心に強く響くのではないでしょうか。

今回のレストアによって映像は美しく蘇り、音響もより際立っています。しかし、作品に宿る荒々しさや未完成さは失われていません。むしろ、登場人物たちの感情や衝動が、より鮮明に立ち上がってくるようにも感じられます。

『ポンヌフの恋人』を入口に、カラックス監督の初期作品群をたどる。

不安定な状況に心が揺れやすいいまだからこそ、あらためて必要とされる映画体験なのかもしれません。

映画『汚れた血』の一場面

 

映画『ポンヌフの恋人』

2025年12月20日(土)より、全国順次公開。京都は京都シネマで、大阪は12月26日(金)よりテアトル梅田で、神戸は1月1日(木)より元町シネマ、1月21日(水)より金星シネマで公開。

公式サイト:https://carax4k.com/pontneuf/

© 1991 STUDIOCANAL – France 2 Cinéma

masami urayama

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