その才能が、血筋を凌駕する──任侠の一門に生まれ、のちに国の宝となる歌舞伎役者・喜久雄の50年を描いた壮大な一代記。芥川賞作家・吉田修一氏の最高傑作と呼び声高い小説を、『悪人』(2010年)、『怒り』(2016)と、これまでも吉田作品を極上の映像作品に仕上げてきた李相日監督がついに映像化。先日開催されたカンヌ国際映画祭でも喝采を浴びた映画『国宝』が、2025年6月6日(金)からいよいよ公開されます。
5月30日(金)には、日本が誇る世界遺産・東寺にてジャパンプレミアを開催。主人公の喜久雄を見事に演じた吉沢亮さんをはじめ、横浜流星さん、高畑充希さん、寺島しのぶさん、森七菜さん、見上愛さん、田中泯さん、渡辺謙さんら豪華キャストが勢ぞろいし、李相日監督とともに撮影の舞台となった京都で、いち早く作品を届けられる喜びを語りました。
ジャパンプレミアも、映画も、奇跡に支えられてできた。
ジャパンプレミアには、抽選で選ばれた約600名を招待し、YouTubeやTikTokでも生配信されました。当日の17時過ぎ、心配された雨も、まるで映画の成功を祝うかのように降らず、薄っすらと陽が入る絶好のシチュエーションのなかで、東寺・金堂が開扉。大きな歓声と拍手が沸き起こります。
金堂の舞台にはキャストと李相日監督が勢ぞろいし、観客に向けてあいさつ。それぞれが感謝と想いを語りました。
主人公である立花喜久雄役・吉沢亮さん
「ついに日本のみなさまにこの映画を届けられる日が来ました。撮影の地である京都の世界遺産というステキな空間でお届けできる、本当にスペシャルな日をすごく楽しみにしておりました。今日は最後までよろしくお願いします」
喜久雄の親友・ライバルとしてともに切磋琢磨する大垣俊介役・横浜流星さん
「雨男なので不安はあったのですが、晴れ男・吉沢亮のおかげで晴れました。ハレの日に東寺という世界遺産でこの作品を届けられることを幸せに思います」
喜久雄のおさななじみ福田春江役・高畑充希さん
「このような、なかなか立てない場所での舞台挨拶に参加できることをとてもうれしく思います。撮影でもお世話になった京都は個人的に大好きで、よく来ます。その京都にまた来ることができてうれしいです」
花井半次郎の後妻で俊介の実母、大垣幸子役・寺島しのぶさん
「わたしたちが渾身でつくったこのステキな映画を、みなさまにいち早く観ていただけることをとてもうれしく思っております。どうぞお楽しみください」
喜久雄のことを慕う歌舞伎役者の娘、彰子役・森七菜さん
「(この日、森さんは声が出づらい状態だったので)なぜか声だけがおかしいですが、体調は万全です。わたしは今日を楽しみにして来ました。みなさんにも楽しんでいただければ幸いです」
喜久雄が京都の花街で出会う芸姑、藤駒役・見上愛さん
「このような特別な場所で、みなさんと特別な時間を共有できることをすごくうれしく思います。今日は一日楽しんでください」
当代一の女形で人間国宝の小野川万菊役・田中泯さん
「未だに自分が万菊をやっていたのが信じられないです。ぜひゆっくりと克明に映画を観て、みなさんの知りえる限りの人たちに、この映画のことを話してください。わたしたちみんなで魂を込めてつくった映画です。よろしくお願いします」
上方歌舞伎の名門当主で看板役者、花井半二郎役・渡辺謙さん
「先ほど扉が開く前、我々は仏さまに背中を押されて出てまいりました。不安な天気予報でしたが、みなさんにお集まりいただけ、映画もきちんと上映できることをうれしく思いますし、この風景のなかに立っていることを本当に奇跡だと思えます。この映画もそういう奇跡に支えられてできた映画です。ちょっと長いのですが、上映前に行けるところは行って、準備をして、最後まで見届けていただければと思います」
李相日監督
「みなさん、雲を吹き飛ばしていただきありがとうございます。(映画は)ちょっと長いのですが、長さをまったく感じないと思います。この映画は関西圏で撮影し、我々もこの京都をベースに生活しながら数カ月間、撮影を行ってきました。この地でたくさんの方にご協力いただいたおかげで、映画を完成することができました。その方々にも感謝の気持ちを伝えることができてうれしく思っております。ありがとうございます」

「2025年のカンヌ国際映画祭で、もっとも美しい映画のひとつ」と評価された。
映画『国宝』は、カンヌ国際映画祭「監督週間」部門に選出され、5月18日に行われたワールドプレミア上映終了後には、鳴りやまない拍手とスタンディングオベーションが巻き起こったと報じられました。
このカンヌに参加した吉沢亮さん、横浜流星さん、渡辺謙さん、そして李相日監督に感想を伺うと。
吉沢さん「日本の伝統芸能をベースにしたエンターテインメント性の高い作品が、カンヌの地でどのような評価をいただけるのか? 楽しみな反面、不安も大きかった。見終わった後のスタンディングオベーションもそうだし、みなさまが集中して観てくださっている空気感がびんびんに伝わってきて、我々が込めたものがしっかり届いているなと胸が熱くなりました」
横浜さん「忘れることのできない景色を見ることができました。カンヌの地に行けただけでも、役者としては幸せなことなのに、観てくださった方々の心に作品がしっかり届いて、(スタンディングオベーションという)景色を見られてすごく幸せでしたし、それを糧に、その後の撮影に行けました。ほんの少しの手応えと自信も感じられたので、早くみなさまに観ていただきたい気持ちでいっぱいです」
渡辺さん「歌舞伎が題材というだけでなく、演目にいろんな意味が込められているシーンが多くて、字幕でどこまでご理解いただけるのか不安がありました。(よい反応をもらえて)映画はお客さまに観ていただいて完成する。それが、どこの国でも同じだということを実感できました。今日もまた、“一期一会の国宝”が、ここのみなさんといっしょに完成する。そう強く思っています」
李監督「上映中は隣の吉沢くんからカチカチに(緊張している)感じがすごく伝わってきて、ぼくにもそれが連動してきた。2人ともグッと力を入れて3時間の映画を観たのですけど、上映が終わったときのリアクションは、とても熱いものがありました。〈ビューティフル〉という言葉が何度も聞こえてきて、今も耳に焼きついています。翌日のカンヌの機関紙に長文の批評が載って、〈歌舞伎の生まれではない映画の俳優たちが、とてつもない大きな挑戦に挑み、結果として絶大な説得力を生み出した。そして、あの映像の美しさ。とくに歌舞伎の舞台の映像は一枚の絵画のような美しさであった〉と書いてあり、さらには〈2025年のカンヌ国際映画祭で、もっとも美しい映画のひとつであった〉と結ばれていた。歌舞伎であり、映画であり、芸術というものに我々が真摯に向き合って挑んできたものに対して、精神性も含めて、美しいと評価してくれたような気がしました」

撮影では、“もう十分だろう”と思った先に2倍くらい残っていた。
本作は歌舞伎が題材。嘘っぽさや拙さが見えてしまうと興ざめしてしまう恐れがあるため、本職の歌舞伎役者ではない俳優が演じるのは高いハードルが立ちはだかります。
とてつもない難役に挑んだ吉沢さんは「撮影期間も含めて約1年半、ひとつ役の準備にここまでの期間を設けるのは、はじめての経験でした。どんな体験をするのか未知数で、大きな不安を抱えながらでしたが、集大成というか、“この作品が僕の代表作になってほしい”という思いものせた撮影だったので、覚悟をもってやっていました。そのぶん、すごく苦しみもしましたけど」と、その覚悟と苦しみを教えてくれます。
それを受けた横浜さんは「(吉沢さんと撮影前に)話しはしなかったのですが、2人とも死ぬほど稽古をしていたので、言葉は交わさずとも思い合えた。二人三脚でやっていました」と振り返りました。

また、横浜さん演じる俊介の母で、上方歌舞伎の名門を支える女房・大垣幸子を演じた寺島さんは、歌舞伎の家の生まれ。歌舞伎の世界を実際に知っている寺島さんから見ても、舞台シーンの撮影は凄まじいものがあったらしく、「李監督のすばらしいところなのですけど、子役の2人も含めて、パフォーマンスする方たちを撮る分量がえげつないんです。わたしと(高畑)充希ちゃんは観客席から応援するしかなかったのですが、途中でタオル投げたくなっちゃうぐらいでした。(演者たちは)本当にがんばっていました」 と教えてくれます。
その過酷な撮影について吉沢さんは「“もう十分だろう”って思った先に、まだ2倍くらい残っていました。体力的にも精神的にもなかなかハードな日々でしたね」と振り返り、横浜さんはそのことに同意しつつ「こんなに妥協せず、ワンカット・ワンカットに魂を込めてくださる方もいないから、幸せな環境でした」と監督のこだわりに感謝します。それを聞いた李監督は、「そういってもらえると報われます。やった甲斐があったなって」と胸をなでおろしていました。

京都という場所のパワーに助けられた撮影だった。
京都で多くのシーンを撮影した本作。京都での思い出をお聞きすると、さまざまなエピソードが飛び出します。
吉沢さん「ウィークリーマンションに泊まっていたんですけど、ある日にすっごくでかいクモが部屋にでて。びっくりしてマネージャーに電話して退治してもらいました。(渡辺さんから自分でやんなさいといわれ)自然が豊かなのか、カメムシも毎日でていました。カメムシは大丈夫ですけど…虫はニガテなんです」
横浜さん「(京都での撮影は)ただ作品と向き合って、俊介として生きていた日々でした。撮影で出し切って、ホテルに帰って反省して。外に出るヒマはありませんでした」
渡辺さん「この2人もすごくがんばって撮影していたのですが、舞台の撮影時には200人ぐらいエキストラの方が参加してくださった。映らないときも応援してくれて、一日おつきあいいただいた。本当に胸が熱くなりました。あと、もうひとつ。ある演舞のシーンはセットなのですが、京都はスタジオの下が土で、土を掘ってエレベーターをつけてせりをつくっています。世界の美術監督・種田陽平さん会心の、京都ならではのセットです。ありがとう種田さん!」※種田さんは来場されており、手を降って応えていました。
高畑さん「わたしはエキストラのみなさんと客席で観るタイミングも多かったので、ただのファンみたいに観ていました。歌舞伎などの舞台は引きの世界で、空気で受け取るものも多いと思うのですが、映画になると寄りの強さが圧倒的で感動しました。撮影中に李監督から〈このカットを見てよ〉って見せてもらった吉沢さんの寄りのカットがあまりに美しくて。(客席から)引きで観られて、(映像で)寄りでも見られた。“ラッキーしちゃったな”と感じました」
森さん「京都での撮影がなかったので、(吉沢さんと横浜さん)2人の演目のときに見にきました。セットが細やかなところまで本当にすばらしくて。あのセットを見てから京都の町並みにもっと興味が湧いてきて、こんなにすばらしい町で撮られた映画がこれから公開されると思うとありがたいです」
見上さん「わたしのシーンは屋内も屋外も全部京都で撮っていたと思います。場所のもつパワーみたいなものをすごく感じる現場で、お茶屋さんのシーンなどを撮影していくなかで、人の匂いや歴史のようなものが町にも建物にも漂っているのが京都だなと。そういうものにすごく助けられた撮影だったと思います」


その期待を確実に超えていく作品になっている。
クロストークでは本作に関わった想いや、スタッフへの感謝を、それぞれの言葉で語るシーンもありました。
寺島さん「作品のなかで大垣幸子として存在しつつ、自分が今まで生きてきた環境が歌舞伎の世界ですので、わたしが存在することで映画に少しでもリアリティがでればと考えていました。そのために、李監督は私を呼んでくださったのかなという感じもしております。既に作品を観てくださった方からの評判がよくて、うれしくてウキウキしています。大成功は間違いないと確信しております」
田中さん「(万菊を演じることは)とにかく桁外れの門外漢。いわゆる伝統と呼ばれているものに80になるまでふれてきていなかったので、どのくらいショックが大きかったか想像できると思います。ぜひ映画で、ぼくの中身を想像しながら観てください。そして、(吉沢さん、横浜さん)2人は壮絶な努力をなさっており、彼らのからだを伝統が侵食しています。これは大事件です。きっと伝統のためにもなると、ぼくは思っています」
李監督「撮影した3ヶ月というのはフィーチャーされる部分ではありますが、原作の吉田さんからはじまり、脚本開発に数年かけ、準備に時間をかけた。そのすべての濃密なエッセンスが撮影され、その後には編集や音楽、CGなど、これまでの作品より倍以上の期間がかかっています。先ほど美術の種田さんをご紹介しましたが、もうひとり、京都が生んだ偉大な音楽家である原摩利彦さんも参加しています。ぼくは撮る量がひどいという話をされていますけど、音楽づくりも似たようなもので、この京都で合宿を何度も行ってすばらしい曲をつくっていただいた。カンヌの劇場のエンジニアも〈サウンドトラックがすばらしい〉といっていましたし、音楽が映画の階段を1つも2つも上げてくれています。その音楽も含めて、映画を浴びてください。カンヌで感じた観客席の熱狂のように、日本のみなさんにも特別な映画体験をしていただければ、これ以上にうれしいことはありません」※原さんも来場されており、監督の呼びかけに応えていました。
そして、『国宝』ジャパンプレミアは、主演を務めた吉沢さんのあいさつで幕切れとなります。
吉沢さん「これまでの関係者試写会やカンヌ国際映画祭で、たくさんの方に絶賛していただいているので、みなさまのなかで期待値の高い作品になっている気がします。その期待を確実に超えていく作品になっていると思います。極上のエンターテインメント作品をお届けできると確信しております。最後まで楽しんでご覧ください。今日はありがとうございました」
映画『国宝』
6月6日(金)から、TOHOシネマズ梅田、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、MOVIX京都、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸などで公開。
公式サイト:https://kokuhou-movie.com/
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会