「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」をテーマに、最旬のアジア映画を紹介する「大阪アジアン映画祭」。第21回となる今回は、大阪・関西万博の会期にあわせた初の夏開催です。8月29日(金)〜9月7日(日)の期間、ABCホールやテアトル梅田、T・ジョイ梅田、大阪中之島美術館、大阪市中央公会堂でさまざまなアジア映画が上映されます。
大阪に集結するのは、20の国と地域から寄せられた計68作品。どのような映画がラインアップされているのか、本映画祭のプログラミング・ディレクター暉峻(てるおか)創三さんに詳しく教えてもらいました。
オープニングは、1970年の大阪万博で実際に撮影された作品。
── 今回の「第21回大阪アジアン映画祭」は、いま盛り上がっている大阪・関西万博の期間にあわせての開催で、今年3月に開催された前回(第20回)から半年も経っていません。準備が大変だったのでは?
そうですね。でも、開催するわたしたちより、出品者のほうが大変だったのではないでしょうか。映画祭というのは基本的に開催期間が決まっていて、大阪アジアン映画祭も3月に開催されるものだと認識されています。「今年は夏にやるから」といわれても、対応がむずかしかったところも多かったと思います。そういった慌ただしい状況のなかで、よくこれだけの作品が集まったと感謝しています。
── では、今回のラインアップの特徴をお教えください。
大きな特徴は、「クラシック作品」を数多く上映すること。アジア映画は昔からすばらしい作品の宝庫だったのですが、商業ベースではあまり公開されていませんでした。大阪アジアン映画祭としても、これらクラシック作品を上映したかったのですが、映画祭としては新作を紹介する使命がありますし、規模が小さいのでスペースや予算にも限界があります。これまでは実現できませんでした。
しかし、前回の第20回から半年とあけずに開催される今回は、新作の応募も少ないことが予想されました。また、近年は昔のフィルム作品をデジタルリマスターすることが流行っていて、古いアジア映画もたくさんデジタル修復されています。クラシック映画を紹介できるチャンスだと思って、古い作品を多めに紹介するようにしました。
── オープニング作品である『万博追跡』もクラシック作品です。
世界の映画祭としては異例だと思います。映画祭のオープニングというのは、できたてほやほやの新作をワールドプレミアやジャパンプレミアというかたちで紹介するのが一般的で、これまでの大阪アジアン映画祭でもそうでした。
今回、偶然にも1970年の大阪万博を舞台にした本作を見つけて、2025年の大阪・関西万博期間中に開催する映画祭に最適だと感じました。さらには、「今回はクラシック作品にも注目してほしい」という映画祭からのメッセージも伝えられるので、この作品をオープニングにしました。
── 上映されるのは、2Kにレストアされたものですよね。
1970年に台湾でロードショーされた作品で、当時のプリントはボロボロの状態だったそうです。それを、台湾の制作サイドが今回の大阪アジアン映画祭に向けてデジタル修復してくれました。ひとつの映画祭のために、そこまで尽力してくれるのは稀有で、ありがたいこと。今回の大阪アジアン映画祭にとって、特別な一本になりました。
── 主演は、日本でもおなじみのジュディ・オングさんです。
ジュディ・オングさんは、日本では歌手として有名ですが、台湾では女優としても活躍されています。一時期は、アイドルのようにも売り出されていました。本作はそういうアイドル期に制作されていて、歌や踊りなどエンターテインメント要素が満載です。
── そして、舞台となっているのが1970年の大阪万博。
当時の大阪万博で実際に撮影しています。わたしの知る限り、実際の万博会場でロケをした劇映画は思い当たりません。万博の近未来的な雰囲気を感じるスペクタクル映画であり、ジュディ・オング主演のスター映画でもある。娯楽性がとても高い作品です。台湾映画に“まじめで地味”というイメージをもっている方もいるので、その先入観を変えられる役目も果たせるのではと期待しています。

クロージングの『好い子』は、映画業界で注目されつつあるシンガポールの作品。
── クロージング作品は『好い子(よいこ)』。
これまでの大阪アジアン映画祭では、オープニングでアジアの新作をジャパンプレミアとして公開し、クロージングは日本の作品で締めることが多かったのです。今回はオープニングに台湾のクラシック映画を配置しましたので、クロージングはいつもの路線をやめて、通常だったらオープニングにしてもいいようなピカピカの新作を選びました。
── シンガポールの作品なんですね。
アジアの映画というと、香港、台湾、韓国、インド、最近だとタイも人気で、国ごとに映画ファンがついている場合が多いのです。シンガポール映画は日本ではまだ親しまれておらず、固定のファンもほとんどいないのではないでしょうか。クロージングにどれくらいの人に来てもらえるのか、少し心配しています。
── 確かに、わたしもシンガポール映画になじみがありません。
映画業界の規模が小さくて、日本では一時期「シンガポール映画というものはない」とまでいわれていました。最近は少ないながらも良い作品が制作されていますし、シンガポール出身の映画監督が国際的な映画シーンで注目を集めはじめています。一般的にはまだまだ知られていませんが、映画業界のなかでは徐々に存在感をあらわしつつあるのです。
── なるほど、注目の国なのですね。この『好い子』は、どのような作品ですか。
ドラァグクイーンが主人公のヒューマンドラマです。社会派的なアプローチもあって、自分らしく生きることを問いつつ、社会の偏見みたいなものも対置して語っています。大阪アジアンはクイア映画を積極的に取り上げてきた映画祭でもあるので、その傾向にもマッチすると考えました。
── ちなみに言語は?
シンガポールは多民族国家で、いろいろな文化が混在しています。ただ、映画に関しては中華圏の人たちががんばっていて、本作も中国語で制作されています。

映画祭で上映されることが珍しい、ブータン作品も注目。
── 大阪アジアン映画祭は、あまりなじみのない国の映画と出会える貴重な場です。今回のおすすめの国はありますか?
なじみのない国という意味では、ブータン王国でしょうか。そもそも映画祭でブータンの作品が上映されるのは、とても珍しいこと。20回以上の歴史がある大阪アジアン映画祭でも、ブータンの作品が入選したのは、2〜3回程度程度です。それが今回は2本も選ばれて、そのうちの1本はコンペティション部門に入っています。
── 『アイ、ザ・ソング』ですね。
はい。ポルノ動画を題材とした映画で、ブータンだけでなく、フランス、ノルウェー、イタリアの合作。ブータンでも数少ない女性映画監督が撮っています。もう1作が、特別注視部門の『橋』で、両作品に共通しているのが、わたしたちがブータンという国にもっている“人里離れたのどかな村での幸福な暮らし”といったイメージに当てはまらないこと。これが現代ブータンのリアルだろうなという部分が描かれていて、新しい流れを感じます。
── これまでのブータン映画のイメージを良い意味で覆してくれそうです。
ブータンも映画産業としては弱小国。制作者もそれほど多くないので、海外の国際映画祭に出品するということも重要視していなかったと思います。しかし、今年は意識の違いを感じました。他国と比べて応募数は多くありませんが、どの作品もクオリティが高かった。今回、2本をラインアップしましたが、上映スペースに余裕があれば3〜4本くらい選びたかったです。わたしもブータン映画を専門的に見てきたわけではないので詳しい事情はわかりませんが、“ブータンの映画界で新しい動きがはじまっている”ように感じました。
── 今のブータンを垣間見られる作品なのですね。そういった意味で、大阪アジアン映画祭はアジア各国のリアルを映画で伝える場でもあるように思います。
入選作品には、わたしたちがこれまでもっていた“リアルではないイメージ”を突き崩すようなタイプの作品が多いです。映画を通して、今のアジアの現状を伝えることを狙っているわけでないのですが、結果的にそうなっているのかもしれませんね。

今回も、多くの映画人とのふれあいを楽しんでもらいたい。
── そのほかにも話題作が目白押しです。なかでも、台湾映画『僕と幽霊が家族になった件』をリメイクしたタイ映画『赤い封筒』(コンペティション部門)が気になっています。
“アジアのA24”といわれているタイのスタジオ「GDH」の作品です。「GDH」はタイ最大のメジャー映画会社でありながら、年間を通して制作するのはせいぜい2〜3本。ひとつの企画に時間をかけて丁寧につくるのが特徴で、ときには年に一本しかつくらないこともあります。つねに質の良いものづくりをしているから、「GDHの作品なら間違いない」といわれています。こちらも、タイのスーパースターであるビルキン&PPクリットが主演してエンターテインメント性が高い作品ですが、人間ドラマもしっかり描けています。今回の大阪アジアン映画祭のラインアップでも、群を抜いたクオリティの一本だと思います。
ちなみにタイからは、『赤い封筒』のほか、特別注視部門で『コンチェッタ、どこにいるの?』『トゥームウォッチャー』が上映されます。どちらも日本ではあまり知られて来なかったタイプのタイ映画です。

── 近年、タイ映画は大盛り上がりですものね。
これまで、アジア映画といえば、香港や台湾、韓国といった国がマジョリティでした。しかし、前回開催あたりからタイ映画のファンが増加しているのを実感しています。ドラマからの流れもあるのか、若いファンの方が多いのもタイ映画の特徴です。『赤い封筒』には、若い方にも人気のあるビルキン&PPクリットが主演しているので、多くの方に見にきていただきたいですね。
── 今回は新規の方が多く来場されるかもしれませんね。そのような大阪アジアン映画祭の初心者におすすめの映画はありますか?
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』のルイス・クーが主演する『私立探偵』を特集企画で日本初上映します。私立探偵が連続殺人事件の真相解明に挑むクライムサスペンスで、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』のソイ・チェン監督がプロデューサーを務めていることも話題です。また、韓国のゾンビ映画『寒いのが好き』(コンペティション部門)も日本初上映です。
とはいえ、映画祭で上映するのは、選び抜かれた作品たち。どれもおすすめですよ。毎回いっていることですが、空いた時間にふらりと立ち寄って観てもらいたい。映画を通して、知らなかったアジアの国々の文化や人を知ることができれば、新しい視野が広がるかもしれません。“知らない映画をちょっと見てみる”のも映画祭らしい楽しみ方なので、ぜひ試してみてください。
── 期間中は複数の会場でさまざまな映画を上映しているので、ふらりと気軽に立ち寄れます。そして、制作した映画人とふれあえるのも大阪アジアン映画祭の魅力です。
昔から、映画をつくった関係者たちに大阪に来てもらうことを大切にしています。制作者の話を聞くことで観客は作品の理解を深められるし、制作者は新たなファンの獲得につながります。各地の制作者やファンが大阪に集い、実際に交流する。それが次につながると考えています。今回もジュディ・オングさん、武田梨奈さん、阪元裕吾監督をはじめ、ブータン、香港、インド、フィリピン、シンガポール、台湾、タイなどからおよそ84名が登壇する予定です。多くの映画人とのふれあいを楽しんでもらいたいですね。
第21回大阪アジアン映画祭
2025年8月29日(金)〜9月7日(日)、ABCホール、テアトル梅田、T・ジョイ梅田、大阪中之島美術館1Fホール、大阪市中央公会堂大集会室にて開催。
上映スケジュールやチケットの購入方法は公式サイトをご確認ください。