1回戦:全32チーム・16試合、いよいよキックオフ!

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9月27日(土)大会1日目

紀伊半島の西、本州の最南端。面積の8割を占める山地が海岸線の近くまで迫り、ダイナミックな自然が織りなす美しい風景が訪れる人を魅了する。風光明媚な名所旧跡、山海の幸や温泉郷、紀伊山地の霊場と参詣道は世界遺産に登録された。自然と歴史と開放感あふれる和歌山が、今大会の舞台である。

試合が開催されるのは、県北部の橋本市運動公園多目的グラウンドと紀の川市桃源郷運動公園陸上競技場、そして県南部の上富田スポーツセンター球技場・多目的グラウンド、串本町サン・ナンタンランド多目的グラウンド、新宮市やたがらすサッカー場の6施設。大会初日はすべての会場で全32チーム・16試合が行われた。

週末ということもあり、チーム関係者やファン・サポーター、そして「全国大会」と聞きつけた地元の人たちが観戦に訪れていた。観光協会のPRブースや特産品の販売、ドリンクのサービスや軽食など、地元の人々のおもてなしに心が和む。近隣の中学・高校のサッカー部員も競技補助員として大会をサポートした。

午前10時、各会場でキックオフの笛が鳴る。すべてのチームがこの日のために準備してきた。リーグ戦、トレーニングマッチ、コンディショニング、クラブスタッフやファン・サポーターも万全の体制で試合の日を迎えた。それでも、参加チームの半数がノックアウトステージの初日で姿を消す。全国大会の緊張感の中で繰り広げられた熱戦は、延長戦やPK戦にまでもつれ込む試合もあり、16チームが2回戦進出を決めた。

 

新宮市やたがらすサッカー場

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サッカーファンにはたまらないネーミングだ。JRきのくに線紀伊佐野駅から徒歩約15分、豊かな緑に包まれた人工芝のサッカー場である。

大会初日、朝のうちは広がっていた雲も時間とともに青空に変わった。強い風がスタジアム周辺に掲げられた大会の幟をはためかせる。会場の入り口あたりは、新宮市の特産品や観光名所を紹介するブースが並んで賑やかだ。人工芝のピッチに映える純白のゴールは、スタジアムのすぐそばにある新翔高校サッカー部の部員たちが組み立てて準備した新品。この日も早朝から集合し競技補助員として大会に協力した。

全国大会ということもあり、地元の人たちも観戦に訪れていた。サッカー部の先生から大会のことを教えてもらったという中学生や、友だちと誘い合ってきたサッカー少年たちもいる。試合の印象を尋ねたら「すごい迫力ですね」「激しさが違う」と目を大きくした。この大会の素晴らしいプレーの数々は、きっと和歌山のサッカー少年少女たちの夢を後押しするだろう。

 

10:00キックオフ:新日鐵住金室蘭(北海道/北海道)vs三菱水島FC(中国/岡山県)

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ともに歴史ある名門クラブだ。新日鐵住金室蘭は企業と一般社会人の混成チームで、過去には全社や天皇杯への出場もある。スタンドには北海道から応援に来た人たちの姿もあり、「だんだん調子が上がっているので、期待しています」「今日は風もあるしコンディションは大丈夫でしょう」と話してくれた。

一方の三菱水島FCは、かつてJFLに所属していた岡山の強豪。経済情勢によりJFLを脱会し2010年は岡山県リーグからのスタートとなったが、逆境に負けず戦い続け、今年ここまでやってきた。スタンドで応援する人たちは、地元・倉敷市から7時間かけて車で来たという。「3年前に中国リーグに復帰してから今がいちばん強い。期待しています」。

午前10時、キックオフ。名門同士の対戦は、20分新日鐵住金室蘭の佐藤選手のシュートで先制すると、その6分後には三菱水島FCの三原選手が同点シュートを決めるという、どちらも譲らない展開。その後1-1のまま続いた試合は、終了間近の76分にPKという形で動く。三菱水島FCの山下選手がこれを決めて1-2と逆転した。残り4分。「まだあるから!」という声がピッチに響き、新日鐵住金室蘭の選手たちが反撃する。力強いプレー、FKのチャンスなど最後までゴールを目指したが、試合はそのまま終了。三菱水島FCが翌日の2回戦進出を決めた。

 

12:20キックオフ:バンディオンセ加古川(関西/兵庫県)vs松江シティFC(中国/島根県)

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今年「東播磨にJリーグを作る会」が発足し、バンディオンセ加古川はJに向かって大きな一歩を踏み出した。元Jリーガーなど大型補強が相次ぐ今シーズンの関西1部で勝点を積み上げるのは簡単ではなかったけれど、「チーム力」にこだわりクラブ一丸ここまで戦い続けてきた。全社予選の出場が懸かるリーグ第7節は劇的だった。勝利しかないバンディオンセ加古川は、先制するも追いつかれる苦しい展開の中で86分に逆転ゴールを決める。その瞬間、全選手・全スタッフが一斉にベンチに駆け寄りチームが文字通りひとつになった。全員で勝ち取ってきた全社の舞台、1回戦で延長の末に敗れた前回大会の口惜しさも力に、強い気持ちで試合に臨んだ。想いをともに戦うサポーターもスタンドから声援をおくる。

対する松江シティFCもJリーグ入りを目指すクラブだ。設立は2011年と若いチームだけれど、地域に根差して戦ってきた。チームには元Jリーガーも所属し、今シーズンは中国リーグ優勝。3年ぶりに挑む全社に、松江からサポーターも駆けつけた。「昨日、和歌山に入りました。ぜひ頑張って欲しい」。

試合は、前半から積極的に攻めるバンディオンセ加古川が、18分に辻村剛史選手のゴールで先制する。松江シティFCも30分には岩崎選手のシュートで同点に追いつくが、その2分後にバンディオンセ加古川は福田選手のゴールで再びリードし、2-1で前半を終了する。しかし後半、松江シティFCは52分には記虎選手のゴールで2-2の同点に追いつくと、終盤77分にはCKから小川選手のヘディングが決まり、逆転。試合はそのまま2-3で松江シティFCが勝利した。

 

14:40キックオフ:矢崎バレンテ(東海/静岡県)vs FC KOREA(関東/東京都)

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企業クラブとして1967年に発足した歴史ある矢崎バレンテ。東海リーグでこれまで何度も優勝し、全社・地決の出場経験も豊富なチームである。スタンドの応援団は、早朝のバスでサッカー場まで駆けつけた。「和歌山へは1泊の予定で来ています。チームの調子はちょっと心配なのですが…。今日勝って、明日も試合を見たい」

FC KOREAは在日コリアンを代表するクラブだ。JFL昇格を目指し、2012年・13年と2年連続関東リーグ優勝、地決にも出場している強豪チームである。スタンドにいるほとんどがサッカー経験者だとか。選手のご家族やクラブOB、中には昨日ソウルから来た人たちが集まり、チームに力強い声援を送っていた。

試合は序盤から両者一歩も譲らない展開で、0-0のまま80分が経過。10分ハーフの延長戦でFC KOREAは積極的にシュートを狙っていくものの、矢崎バレンテも集中して守りきり、スコアレスで今大会初のPK戦に突入した。陽射しが翳ると秋の気配に包まれるグラウンド、PK戦ではFC KOREAのGK康選手がPKを止める気迫のプレーで、4-1でPK戦を制したFC KOREAが2回戦進出を決めた。

 

 

紀の川市 桃源郷運動公園 陸上競技場

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和歌山県の北部、和歌山市の隣りに位置する紀の川市桃山町に桃源郷運動公園はある。猫のたま駅長がいる和歌山電鐵貴志駅よりコミュニティバスで20分ほど。スタジアムのある場所は、その名の通り桃の産地で、春先にはスタジアムでも桃の花や同じバラ科の梅の花が美しく咲き誇る。本大会は残念ながら花の時期からは外れているが、今日からの3日間は全国から集まったサッカークラブとファン・サポーターがスタジアムを彩ってくれるだろう。

 

10:00キックオフ:クラブ・ドラゴンズ(関東/茨城県) vs 札幌蹴球団(北海道)

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クラブ・ドラゴンズは、流通経済大学サッカー部の1年生を中心にしたチームだ。部内での位置づけは、関東大学サッカーリーグ1部のトップチーム、関東サッカーリーグ1部の流通経済大学FCに次いで3番手のチームとなる。所属する関東サッカーリーグ2部では2位だが、天皇杯茨城県予選の準決勝で同大学サッカー部のトップチームを破ったということもあり、今大会での活躍にも注目が集まる。

対戦する札幌蹴球団は、北海道1部リーグに所属して36年という歴史あるチームである。今シーズンの成績は、リーグ2位。3年連続出場となった今大会では、前年の初戦敗退の悔しさを晴らすべく、攻守ともにハードワークし一昨年に残したベスト8という成績を越えることを目標に掲げた。

開始10分、クラブ・ドラゴンズの守田選手が先制点をあげる。前半中に同じくクラブ・ドラゴンズの榎本選手が追加点。2点ビハインドで迎えた後半でなんとか流れを変えたい札幌蹴球団は、前半よりもチャンスを作り出すものの、56分にはクラブ・ドラゴンズの榎本選手にもう一度ゴールを奪われる苦しい展開に。79分、一矢報いたい札幌蹴球団は阿部選手からのボールを受けた川那部選手がゴールを奪い3-1にするも、追いつくことが叶わず試合は終了。クラブ・ドラゴンズが2回戦に駒を進めた。

 

12:20キックオフ:レイジェンド滋賀FC(関西/滋賀) vs FC鈴鹿ランポーレ(東海/三重)

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滋賀県にはJFL所属クラブはあるものの、まだJクラブは存在しない。2005年に発足したレイジェンド滋賀FCは「湖国からJリーグへ」と掲げたクラブであり、今年10年目の節目となる。全社には4年連続5回目の出場となった。

対戦相手となるFC鈴鹿ランポーレは、東海リーグ1部を制してきた。こちらも、Jクラブの存在しない三重県からJリーグを目指している。名張市の三重FCランポーレと鈴鹿市の鈴鹿クラブが、2009年に合併しできたクラブだ。

このカードは、リーグは異なるものの隣県に所在するチームの対戦だ。「山を越えたらすぐなので」と話すように、両チームのサポーターは日頃から互いのスタジアムに足を運んで観戦するなど、親交も深い。それだけに「全国大会という感覚に欠ける部分もありますね」と苦笑いを浮かべた。

5日間の全試合のうち最も気温の高い33.1℃を記録したこの一戦、前半はスコアレスのまま折り返す。試合は56分に動いた。FC鈴鹿ランポーレの北野選手のドリブルから井上選手がシュートを決め、先制した。さらに66分、北野選手がドリブル突破して追加点を奪う。レイジェンド滋賀FCもゴールに向かい走り続けた。後半はシュートまで持ち込む機会も増やしたものの、FC鈴鹿ランポーレGK蜂巣選手が得点を許さず。0-2で試合に勝利したFC鈴鹿ランポーレが2回戦進出を決めた。

 

●全社コラム:桃源郷大物産展

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1回戦の日、桃源郷会場で「桃源郷大物産展」が開催された。大会オフィシャルの企画ではなく、サポーターがお土産をスタンドに持ち寄るというものである。この日試合があるレイジェンド滋賀FC、FC鈴鹿ランポーレ、そしてアルテリーヴォ和歌山のサポーターたちが、地元の銘菓などを手に続々と集まった。この物産展のために、東北など各地からも事前に土産物が送られてきたそうだ。全国的に知られた名物から見たこともない珍しいものまで、たくさんの土産物と見物のファン・サポーターで会場は賑わった。

この物産展が少し意外だったのは、レイジェンド滋賀FC vs FC鈴鹿ランポーレの試合のハーフタイムに、両チームのサポーターが中心になって開催されたことだ。日頃から親交があるとは言え、「対戦相手は敵」という考えがあれば、試合の途中で集まることは難しいだろう。お互いのことをリスペクトしていて、サッカーを愛する仲間同士だという認識を持っていることが、その和やかな雰囲気からうかがい知ることができた。自分の応援するチーム以外のサポーターともこうした交流があることは、地域リーグの魅力のうちの1つではないかと思う。ハーフタイムが終わって別れる際に「ウチが勝つからね!」「いやいや、ウチが勝ちますよ!」と笑顔で声をかけ合う姿も、とても清々しく感じられた。

スタジアムではメインの試合観戦以外にもいろんな楽しみ方がある、そんなことをもう一度感じさせられる、お腹も心も満たされる物産展だった。

 

 

14:40キックオフ:デッツォーラ島根(中国/島根) vs アルテリーヴォ和歌山(開催地/和歌山)

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中国サッカーリーグに所属するデッツォーラ島根。ポルトガル語の神(デウス)+ようこそ(オラー)で「デッツォーラ」という名称が示すとおり、神々の国・島根に根差し、地域活性化を目指すクラブである。リーグでの順位は惜しくも2位。ここで地決の出場権を獲得したいところだ。

一方の開催地・和歌山県代表のアルテリーヴォ和歌山は、全社初出場である。所属する関西1部リーグで、前期を終えた時点での順位は6位。1部所属クラブは5位以上しか出場することができない全社関西予選への挑戦権は、あと一歩というところで失った。しかし和歌山県の開催地枠をめぐる和歌山県代表決定戦に勝利し、全社への出場権を獲得。一度悔しい思いをして獲得した出場権なのだ。今季リーグ戦を奈良クラブとFC大阪に次ぐ3位で終えた今、この大会で3位以内に入ることが昇格へのラストチャンスとなる。いつもよりもさらに引き締まった表情からは、選手たちのこの大会にかける想いや気迫が感じとれた。

試合前、GM児玉佳代子氏も「私たちが関西予選での出場枠を獲得していたら、この開催地枠は県リーグに所属するチームのものでした。自分たちのふがいなさのせいでその機会を奪ってしまったこと、大変申し訳ないと感じています。だからこそ、ここで恥ずかしい試合をするわけにはいかない」と開催地代表の重みを話してくれた。地元開催ということもあって多く駆けつけたファン・サポーターの声は、選手たちの背中を押す。

攻守ともに両チーム一歩も譲らず走り続けた53分、アルテリーヴォ和歌山が均衡を破る。中山選手のクロスに芝﨑選手が頭を合わせ、先制。しかしそのわずか6分後、デッツォーラ島根の田栗選手が得点し、1−1のまま延長戦に突入した。83分、アルテリーヴォ和歌山がPKを獲得。キッカーは先制点の起点ともなった白方選手。落ち着いて右足を振り抜き、ゴールネットを揺らした。これが決勝点となり、アルテリーヴォ和歌山が初戦を突破した。

 

2回戦進出チーム

クラブ・ドラゴンズ、FC鈴鹿ランポーレ、アルテリーヴォ和歌山、高知UトラスターFC、奈良クラブ、サウルコス福井、コバルトーレ女川、三菱重工長崎SC、鹿児島ユナイテッドFCセカンド、アミティエSC、ラインメール青森FC、VONDS市原FC、FC大阪、三菱水島FC、松江シティFC、FC KOREA

 

Text by  Michio KII  & Kaori MAEDA

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