準々決勝:地決へ、生き残りを賭けた戦い。

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9月29日(月)大会3日目

ベスト8のうち、半数が関西リーグのチームとなった。

ここ数年の関西リーグは、Jリーグ入りを目指すチームがしのぎを削る戦いが続いている。特に今シーズンは、各クラブともJリーガーをはじめ大型補強を積極的に行った。リーグ優勝の奈良クラブは昨年9月に加入した岡山一成選手に続き、シュナイダー選手、甲斐選手、鶴見選手などが新加入。2位FC大阪は、近藤選手、中村選手、紀氏選手、山瀬選手ほか、元Jリーガーやブラジル人選手も補強した。3位アルテリーヴォ和歌山には元日本代表の永井選手が加入している。リーグ戦のレベルの高さを感じさせる、4チームのベスト8入り。あとひとつ勝てば、地決が見えてくる。

地元和歌山はもちろん関西のファン・サポーターの期待はぐんと高まった。しかし、全国大会は簡単ではなかった。

 

 

串本町サン・ナンタンランド多目的グラウンド

11:00キックオフ:アミティエSC(関西/京都府) vs VONDS市原FC(関東/千葉県)

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今シーズン、リーグ戦5位という成績ながら、今大会にむけてチームもクラブも入念に準備してきたアミティエSC。1回戦はChukyo univ.FCに2-1で勝ち越し、2回戦は鹿児島ユナイテッドFCセカンドに0-3で勝利して、準々決勝へコマを進めてきた。選手たちは子どもたちのサッカースクールの指導者が中心だから、地域のファミリーとの絆も強い。リーグ戦ではスクールの子どもたちも一生懸命応援する。この日の試合にも、スクール生のファミリーが応援に訪れていた。前日に運動会があったため、代休を利用して今朝こちらに来られたとのこと。スクールに通うのは小学校6年生。「清水選手と面家選手に指導してもらっています。楽しいスクールが大好き。アミティエ、頑張れ!」

対するVONDS市原FCは、市原市サッカー協会が主体で設立した市民球団。試合前のスタンドを訪れると、サポーターと一緒に選手が弾幕張りを手伝っていた。仲がいいんですねと選手に声をかけると「サポーターとの距離は近いですよ。すごく励みになります」スタンドには千葉から訪れたサポーター。昨日までは週末を利用して40名ほどの団体で応援したそうだ。

アミティエSCのキックオフで始まった試合、16分にFKからVONDS市原FCの石田選手が先制点を奪うが、26分にはアミティエSCが柳選手のシュートで同点に追いつき、ゲームは振り出しに。しかし、前半アディショナルタイム、アミティエSCはこの日2枚目のイエローカードで退場者を出してしまう。DFを一人欠いて後半に臨むアミティエSCだったが「死ぬ気で守れ!」と叫ぶGK土師選手をはじめ「後ろは我慢」「前を信じて」というDFの選手たちの声がピッチに響く。それに応えるように、この日1得点の柳選手を中心に前の選手も攻め上がり、後半はVONDS市原FCを上回るシュートを放った。しかし55分VONDS市原FC藤牧選手のヘディングが決まって1-2に。結局これが決勝点となり、VONDS市原FCがベスト4進出を決めた。アミティエSCは選手もサポーターも最後まで諦めないプレーが心に残った。

 

13:30キックオフ:FC大阪(関西/大阪府) vs 松江シティFC(中国/島根県)

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後にFC大阪の森岡監督がこの大会で「非常に大事な試合だった」と語ったのが、この対戦カードである。大会3日目、ともにスタメンを数名入れ替えて臨んだ試合。FC大阪は2試合連続得点中のフィリピーニョ選手をサブスタートとするものの、34分中村選手のシュートで先制した。FC大阪の積極的な攻撃に前半はシュート1本に抑えられた松江シティFC、後半は反撃に出るがFC大阪の守りを破れない。そして、60分にフィリピーニョ選手が交代出場すると、終盤の77分、80分に連続ゴールで試合を決めた。

 

●全社コラム:初めての観戦が、全社だった。

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大会初日の新宮市の会場に、初めてサッカーの試合を観に来たという女性がいた。土曜日なら仕事が昼までで終わるから、午後からやたがらすサッカー場に行ける。同じ関西のバンディオンセ加古川の試合があるから観てみよう、そう思ったそうだ。スタジアムに行ってみると、選手たちはみんなうまくて、迫力があって、素晴らしいチームだった。生観戦の面白さも、応援するチームが負けるせつなさも初めて知った。

その体験に味をしめて、翌日、彼女はサン・ナンタンランド多目的グラウンドで2試合も観戦した。スタンドに座っていると、三菱水島FCのサポーターが県リーグ時代からの苦難の道のりを話してくれたという。この大会に来るまで、本当にたくさんのことを乗り越えてきたのだと。そんなチームもあるのかと、彼女は思った。Jリーグではないけれど、全社は本当にすごい大会なんだと、彼女は改めて思ったそうだ。

今まではテレビで代表戦を観るくらいだったけれど、実際にスタジアムで試合を観るとやはり迫力が違う。選手たちの声、観客席の会話、サポーターが応援する姿、みんな一生懸命で、どれも新鮮だった。「日の丸を背負っていなくても、こんなに熱い戦いを見せてもらえる。感動しました。きっとみんな大事なものを背負っているんでしょうね」。日常では味わえない興奮や感動など、様々な思いを体験できた2日間。彼女はすっかりサッカーに魅了されてしまったようだ。

和歌山県にJクラブはない。彼女が暮らす新宮市からJリーグを観に行こうと思ったら、大阪か名古屋まで3~4時間の道のりだ。でも、和歌山にもJを目指すクラブがある。この大会を観に行こうと思ったのも、和歌山市に住む彼女の娘がJを目指すアルテリーヴォ和歌山の話ばかりしていたからだ。彼女自身はサッカーにはあまり詳しくないし、チームのこともよくは知らない。でも、スタジアムにはたくさんの感動があった。思いきって観に行って良かった。「今度、娘にアルテリーヴォ和歌山の試合に連れて行ってもらおうかな」。来年還暦を迎える彼女の表情が、一瞬、少女のように見えた。

 

 

紀の川市桃源郷運動公園陸上競技場

11:00キックオフ:クラブ・ドラゴンズ(関東/茨城県) vs アルテリーヴォ和歌山(開催地/和歌山県)

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1回戦・2回戦ともに守田選手が先制点を挙げ榎本選手が2得点を奪ってきたクラブ・ドラゴンズ。連戦が続くレギュレーションの中、ここまで80分で勝敗を決めてきたのは大きい。対するアルテリーヴォ和歌山は、初戦は延長戦、2回戦はPK戦までもつれ込んだ。「この2日間で緊張感ある延長戦が続いたほうが、体力的にきついんじゃないかと思っていました。でも、違った」。そう話してくれたのは、友人・家族がそれぞれのチームにいるというサッカー青年だ。この対戦を観るため、休暇を取って会場に駆けつけた。青年の言葉どおり、試合は、両者一歩も引かない展開となった。

ボールを奪われたら、奪い返す。攻め込まれても、攻め上がる。緊張感のある試合はスコアレスのまま折り返す。そして後半22分、クラブ・ドラゴンズ西槙選手からのパスを受けた星野選手がシュート。ようやく得た1点に、クラブ・ドラゴンズの選手たちはベンチ前に駆け寄って全身で喜びをあらわにした。この1点、何としてでも返したいアルテリーヴォ和歌山の猛攻が始まった。しかし、白方選手のFKは惜しくもバーを叩き、大西選手の左足から放たれたシュートもまたバーに弾き返された。最後の最後まで懸命に走り続けたが、重くのしかかるその1点に届かないまま終了のホイッスルが鳴り響いた。

アルテリーヴォ和歌山はベスト8という結果を残し、初めての全社を終えた。

 

13:30キックオフ:奈良クラブ(関西/奈良県) vs 三菱重工長崎SC(九州/長崎県)

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三菱重工長崎SCは、1947年に三菱重工長崎造船所のサッカー部として創部された歴史のあるチームだ。1回戦はFC刈谷を1−0で、2回戦はコバルトーレ女川に2−1で勝利してきた。今のチームの最年長は、40歳の安部選手と竹村選手。1回戦・2回戦ともにフル出場、3回戦でもスターティングメンバーに名を連ねている。

奈良クラブは前日からスタメンを1人変更。リーグ戦では1度しか出場機会がなかったものの、全社1回戦で2得点を挙げた柳田選手が加えられた。

その柳田選手が、先発起用の期待に応える。31分、奈良クラブは瀬里選手からのボールを受けた柳田選手がシュートを撃ち、先制点を挙げた。1−0で迎えた後半だったが、開始から6分、三菱重工長崎SCがオウンゴールで1点を返す。これで試合は振り出しに。その後は互いに得点を許さず、延長戦に入っても1-1のまま決着はつかなかった。

試合は、今大会3試合目となるPK戦に入る。奈良クラブの先行で始まったPK戦は、三菱重工長崎SCのGK磯野選手が5人目のPKをストップ。準決勝・決勝の会場となる上富田行きを決めた。

 

 

準決勝進出チーム

クラブ・ドラゴンズ、三菱重工長崎SC、VONDS市原FC、FC大阪

準々決勝で最後まで決着が着かなかった桃源郷での試合は、スタジアムに行けなかった人々にも注目されていた。奈良クラブと三菱重工長崎SCの試合の模様は、JFLの速報サイトや現地観戦しているサポーターのSNSで知ることができたのだ。串本でも、試合後のファン・サポーターの間からこんな声が聞こえてきた。

「奈良クラブはどうなった?」「まだ試合は終わらないの?」「延長らしいよ」「PK戦だ」

すでにベスト4を決めているクラブ・ドラゴンズ、VONDS市原FC、FC大阪にとっては、権利持ちの奈良クラブが勝てば、その時点で3チームの地決出場が決まる。逆に三菱重工長崎SCが勝てば、地決枠をめぐる死闘は明日の準決勝、明後日の3位決定戦まで続くことになる。

桃源郷でのPK戦を制したのは、三菱重工長崎SCだった。

Text by  Michio KII  & Kaori MAEDA

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