アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』自分以外の誰かを大切に想うということ。

田辺聖子さんが1984年に発表した短編『ジョセと虎と魚たち』をご存知でしょうか? ほんの20数ページのストーリーのなかに生きるということの強さと弱さ、恋するということの甘さと苦さがギュッとつまった青春恋愛小説の金字塔のような作品。その世界は海のように広くて深く、35年以上の月日が経過した現在でも多くのファンに愛されています。(わたしも、そのひとり)

この不朽の名作は2003年に実写映画化され、犬童一心監督が小説の世界観を2000年代の自由だけど窮屈な空気感で表現。こちらも名作で、個人的邦画ベスト3に入るくらい大好きです。

そして、2020年。昭和・平成・令和と時代をめぐってきた『ジョセと虎と魚たち』は、アニメーション映画となって生まれ変わりました。

 

令和版“ジョセ虎”は、かわいくて、とてもやさしい。

実のところ、原作小説と実写映画の『ジョセと虎と魚たち』は少し苦い。スイート&ビターな展開で最後にチクッと心が痛くなったりもします。しかし、アニメーションとなった令和版では、ビターな味つけはちょっぴり控えめ。かわいくて、やさしい “新しいジョセ虎”をみせてくれます。

 

物語のはじまりは、幼いころから足が不自由で外の世界と区切られて生きてきたジョゼと、大学で海洋学を専攻しつつメキシコ留学をめざしてバイトに明け暮れている恒夫が偶然出会うところから。自分の世界に閉じこもることで自分を守ってきたジョセと、やさしくオープンだけど目に見える世界のなかだけで生きている恒夫は、自分とは違うタイプの人とふれていくことで互いを意識し、新しいもの・知らなかったものが見えていきます。

© 2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Projec

自分に新しい世界を運んでくれる人が目の前に現れたら、恋をするなというほうがむずかしいもの。ジョゼと恒夫は互い意識しはじめ、距離を縮めていくのですが、その過程のかわいらしさは本作の大きな魅力です。とくにジョゼのかわいらしさは秀逸で、くるくると変わる表情と清原果耶さんが演じるこの年ごろらしい素直になりきれない口調がマッチして、なんともいえずキュート。そのジョゼを受け止める恒夫役の中川大志さんも、やさしさをもちながらも若者ゆえの余裕のなさが見え隠れする若者を声で表現し、こういう男の子っているよなぁと思わせてくれるのです。2人は国内長編アニメーションの主戦声優ははじめてだということですが、フレッシュ感のある2人の声があったから新しいジョゼ虎を創造できたようにも感じました。

 

舞台は大阪。なじみの景色が見られるのも楽しい!

本作の舞台は大阪。大阪人にとっては、なじみのある景色がアニメーションとして描かれているのも見どころです。HEP FIVEの観覧車やなんばパークス、アメリカ村といった大阪の定番スポットをはじめ、通天閣にある喫茶ドレミといったコアな場所が登場するのも楽しい。また、物語の重要なファクターとなる動物施設が、個人的に大好きな海遊館や天王寺動物園なのもうれしくなります。

色鮮やかなアニメーションで描かれるそれら景色は、そのチカラによって新たなイマジネーションを与えられ、見知っている場所がキラキラと輝いて見えるから不思議。映画を見終わったあとに「わたし、いい街に住んでるのかも」と思わせてくれました。

世界が一変した2020年。当たり前のことが当たり前でなくなって、大切な人に逢えないさみしさをわたしたちは味わっています。

そんな今だからこそ、「自分以外の誰かを大切に想うと、自分も強くなれる」ことを改めて感じさせてくれるアニメ映画と、映画館でじっくり向き合ってみるのもステキなのではないでしょうか。

© 2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Projec

 

アニメ映画『ジョセと虎と魚たち』

監督:タムラコータロー

原作:田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』(角川文庫刊)

声の出演:中川大志 清原果耶
宮本侑芽 興津和幸 Lynn 松寺千恵美 盛山晋太郎(見取り図) リリー(見取り図)

アニメーション制作:ボンズ

配給:松竹/KADOKAWA

2020年12月25日(金)より、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、T・ジョイ京都、OSシネマズ神戸ハーバーランドほか全国ロードショー!

公式サイト:https://joseetora.jp/

masami urayama

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