2025年9月7日(日)、「第21回大阪アジアン映画祭」が閉幕。ABCホールで開催されたクロージングセレモニーで各賞が発表されました。
つづいて、クロージング作品としてドラァグクイーンと家族の再生を描いたシンガポール映画『好い子(原題:好孩子)』が世界初上映。上映前後にはワン・グォシン監督、ドラァグクイーンの主人公を演じたリッチー・コーさん、母親役のホン・フイファンさんが登壇し、観客からの質問に答えました。
グランプリは現代の中国の若者を描いた『最後の夏』。
8月29日から9月7日までの期間に68作品が上映された「第21回大阪アジアン映画祭」。コンペティション部門上映作品を対象に、審査委員会がもっとも優秀であると評価した作品に与えられるグランプリ(最優秀作品賞)には中国映画の『最後の夏』が選ばれました。
本作は、不慮の事故で幼女を殺してしまった女子高生が直面する苦悩から、現代に生きる中国の若者を多角的に描いた作品。「脚本がとても魅力的であり、監督の一貫した演出は作品全体を掌握し、ブレることなく冒頭からラストシーンまで観客の心をつかんで離さない」と評価されました。
登壇したシー・レンフェイ監督は、驚きと喜びの表情を浮かべながら「本作は現代の中国の社会、そこで生きる人、家族、モラル的なジレンマを描いています。今回、海外初上映で、観客の皆さんに共感したと感想をいただくことができて、とてもうれしかったです。受賞に際し、低予算の中支えてくれた制作スタッフ、家族に感謝を伝えたいと思います。大阪アジアン映画祭の皆さんにも感謝いたします」とコメントしました。
コンペティション部門上映作品を対象に、審査委員会が最もアジア映画の未来を担う才能であると評価した方に授与する「来たるべき才能賞」には、韓国映画『寒いのが好き』のホン・ソンウン監督が選ばれました。ホン監督は「大阪アジアン映画祭はわたしにとって特別な映画祭で、まるでふるさとのように、あたたかく包んでもらっていると感じます。映画産業は困難な時期を迎えていると感じ悲観的になっていたのですが、今回の受賞で明るい気持ちでがんばろうと思うことができました。ありがとうございます」と喜びを語りました。
【受賞結果】
グランプリ(最優秀作品賞):『最後の夏』(The Last Summer/夏墜)/中国
来るべき才能賞:ホン・ソンウン監督(HONG Sungeun/홍성)
スペシャル・メンション:『世界日の出の時』(All Quiet at Sunrise/世界日出時)/中国、マリス・ラカル(Maris RACAL、『サンシャイン』主演)
薬師真珠賞:タンディン・ビダ(Tandin Bidha、『アイ、ザ・ソング』主演)
JAPAN CUTS Award:『ジンジャー・ボーイ』(Ginger Boy)/日本
芳泉短編賞:『初めての夏』(First Summer/첫 여름)/韓国
芳泉短編賞 スペシャル・メンション:『ミルクレディ』(Milk Lady)/日本、『ブルーアンバー』(Blue Amber)/日本
観客賞:『嘘もまことも』(Truth or Lies)/日本

クロージングでは、シンガポール発のチャーミングな家族ドラマ『好い子』を上映。
クロージング・セレモニーを終えると、ドラァグクイーンと家族の再生を描いたシンガポール発の映画『好い子(原題:好孩子)』が世界初上映されました。
自分を拒絶した父の死をきっかけに実家に戻ったドラァグクイーン、認知症の母、理解しあえない兄、バラバラになった家族たち。崩壊しそうになった関係をつなぎとめたのは、とっさについた「私はあなたの娘」という嘘だった——。
ドラァグクイーン姿の息子を“娘”と信じた認知症の母との時間が、過去を受け入れ、かたくなだった心をほぐしていくヒューマンドラマで、本当の自分を見つけるまでの愛おしい時間をチャーミングに描きながら多様な家族の在り方を描いています。

シンガポール映画から、人間、そして家族のあたたかさを感じてほしい。
上映前後には監督と出演者による舞台挨拶を開催。まず、シンガポール初の2022年金馬奨最優秀主演女優賞にノミネートされた名優ホン・フイファンさんが、「日本のみなさま、こんにちは。私はホンです」と日本語であいさつします。すると、「私はワンです」「私はリッチーです」とワン・グォシン監督やリッチー・コウさんも日本語で自己紹介をし、会場はあたたかい拍手につつまれました。
主人公アーハオを演じたリッチー・コウさんは「肉体的にも精神的にも大きなプレッシャーを感じた」と役づくりのむずかしさを振り返りながら、ワン監督や指導の先生からのサポートに感謝します。
本作で認知症の母親を演じたホン・フイファンは、この企画を知ったとき「認知症だとしても、息子を娘と思い込むことなんかあるのだろうか」と疑問を抱いたといいます。しかし、実在の人物の体験をもとに翻案した脚本を読み進めるうち、いくつかの場面に感動してこの物語を受け入れることができ、「役づくりにも自然に入り込め、すばらしい作品に参加することができた」と喜びを語りました。
新世代シンガポール映画界を担う存在として注目されるワン・グォシン監督は、笑顔で「映画『好い子』が日本で世界初上映を迎えることができ、心より感謝いたします」とあいさつ。さらに、上映前のインタビューで記者から「この作品には人間に対するやさしさ、心があたたまる場面があった」と伝えられたエピソードを紹介し、「観客のみなさんにもシンガポール映画から、シンガポールなりの人間、家族のあたたかさ、やさしさを感じていただけることを願っています」と想いを伝えてくれました。

第21回大阪アジアン映画祭
2025年8月29日(金)〜9月7日(日)、ABCホール、テアトル梅田、T・ジョイ梅田、大阪中之島美術館1Fホール、大阪市中央公会堂大集会室にて開催。
公式サイト:https://oaff.jp/oaff2025expo/