大阪から、全国の舞台でゴールを狙う。

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FC大阪 監督 森岡 茂  氏

 

ずっと、Jリーグを目指してきた。まだ大阪府リーグだった2008年からチームを指揮し、関西リーグ2部・1部と勝ち上がってきた。2014年は関西リーグ2位ながら、全国大会を経てJFL昇格。「7年間、下のカテゴリーから昇格していくチームにずっと携われる経験もなかなかないでしょう」。チームとともに歩んできた指揮官の下、FC大阪は今季アマチュアリーグ最高峰のJFLに挑み、上位争いに加わっている。

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2014シーズン、関西リーグでの戦い

 

関西リーグ2部から1部には1年で昇格、2013年は関西1部でリーグ2分無敗で優勝。さらに補強を加えた‘14年、前年をも上回る強さでリーグ優勝するだろうと当然のように目されていた。しかし、リーグ第4節までで3試合を引き分けとし、’13年よりも苦しい戦いを強いられた。

 

――2014年、関西リーグでの戦いはいかがでしたか?

「厳しい戦いが多かったですね。関西リーグからJFLに昇格することができればレベルも当然上がるので、先のことを考えていた部分が上手くいかなかった原因かなと感じています」

 

――昇格も見据えて、ですか。

「やってみないとわからない部分もありますが、カテゴリーが上がれば雰囲気もレベルも変わります。だから、関西リーグでも昇格した時のことを想定して、個々のレベルアップを考えながら取り組んでいました。今となっては、少し考えすぎていたのかな、と」

 

――「考えすぎていた」と感じられたのは、いつ頃?

「関西リーグ第11節で奈良クラブに敗戦した後ですね。首位でいるためには、引き分けでも良かった試合(※)。そこで負けてしまったことは大きかったです」

※第10節終了時、首位・FC大阪の勝ち点は22(得失点差+18)、2位・奈良クラブの勝ち点は21(得失点差+9)だった。

 

――関西リーグ1部で初めての黒星。切り替えはスムーズでしたか?

「僅差の惜敗だったら、もっと引きずっていたんじゃないでしょうか。大敗したことでチームとして強い危機感を持てましたし、逆に切り替えやすかった」

 

――その後、残りの試合を3連勝し、リーグ2位の成績でした。切り替えが上手くいき、余裕を取り戻したといったところでしょうか?

「いやいや、そんなことはないです。現場では大変でした。勝つか負けるか。緊張感を持ち、最後まで必死に戦いました」

 

 

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「今年昇格できなければ、辞任する覚悟でした」

 

リーグ優勝を逃し、JFL昇格への道は全国社会人サッカー選手権(全社)で3位以上に入り地域リーグ決勝大会(地決)への出場権を得るしかなくなったFC大阪。5日連戦のトーナメントとなる全社では、準決勝以外は完封試合で優勝。全社の結果により出場できた地決でも、6つの試合のうち1つを引き分け(PK負け)としただけで、準優勝。1つたりとも負けられないプレッシャーをはねのけ、‘13年に出場した際には叶えられなかったJFL昇格を勝ち取る。

 

――全社では優勝、地決では準優勝。どちらの大会も、関西リーグでの戦い方とは変化がありました。

「リーグ戦とトーナメント戦では、『引き分けでもいい』と『負けたら終わり』という部分が大きく違います。全社・地決では、勝つことだけをシンプルに考え、挑みました」

 

――実際に試合に挑み、いかがでしたか? 危なげなく勝ち進んだ印象ですが。

「まわりからどう思われていたかわかりませんが、みんな勝つために必死でしたよ。試合終了のホイッスルが鳴るまでは、何が起こるかわからない。勝って当たり前と思われている中で、選手たちにもプレッシャーがあったでしょうし、私自身も昇格できなければ辞任する覚悟でした」

――いつ頃からその覚悟を?

「シーズンの始めから、今年昇格できなければ退く覚悟で挑んでいました」

 

――ご自身の進退を賭けて臨んだ大会だったんですね。昇格できた要因は何だったでしょうか?

「団結力です。ああいう試合では、やはりどれだけ団結しているかが重要ですよね」

 

――昇格を勝ち得た‘14年の地決と1次ラウンド敗退の‘13年、違いは?

「‘13年は、試合後に選手の身体を休ませることに重きを置いていましたが、勝ち上がることができた昨年は試合毎の修正点を、上からの指示ではなく、選手たち自身を中心に話し合いました。ミーティングの中で全員の前で話をすれば、全員が理解を共有できます。実際プレーするのは選手たち自身ですから、選手たち自身がしっかりと理解して挑めたことは大きかった。1つの目標に向かって団結できていました」

 

――その地決の結果、関西リーグからはFC大阪と奈良クラブの2クラブがJFL昇格することになりました。

「地域リーグからJFLに上がるところは、全社や地決の過酷な連戦で勝ち上がる必要があります。とても厳しい戦いです。そんな中、関西からともに昇格できたことは、本当に良かった。より一層関西が盛り上がっていくんじゃないかと期待しています」

 

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チームとともに歩んできた7年間。

 

高校卒業後の1992年、ガンバ大阪に入団。アトランタ五輪の代表メンバーでもあった森岡監督は、2005年までJリーグでプレー。2006年からは関西リーグ1部のバンディオンセ神戸(現:加古川)でプレーし、2008年より大阪府リーグ1部だったFC大阪の監督に就任。当初は選手登録もされていた。今季、FC大阪で8年目のシーズンを迎える。

 

――改めて、関西リーグで過ごした3年間、いかがでしたか?

「私がバンディオンセ神戸でプレーしていた時代と違って、今は所属チームのほとんどが本気で昇格を目指して取り組んでいるので、リーグ自体のレベルも上がってきているのを感じています。監督として戦ってみて、たとえば自分の思う通りに試合が展開したときなど、選手のときとは違うおもしろさも感じました」

 

――ゲーム中は、寡黙に見守られている印象でした。

「試合中に多く指示を出す方ではないと思いますが、あまり言い過ぎても選手たちを迷わせる部分もあるでしょうし、いくら外から言ったとしても実際にピッチ上で試合を進めることができるのは選手たちだけ。それは選手たちにも話していますし、ゲームになったら選手たちを信じています」

 

――選手たちを信頼してらっしゃるんですね。信頼関係を築くため、コミュニケーションは多くとられる方?

「たくさん、ではないかもしれませんが。選手たちの様子はよく見るようにしています。それぞれの特長を出してあげられるようにしたいですし、内に秘めているものもきちんと見極めてあげたいですから。私自身も選手時代はそうでしたが、思っていることが表に出る選手ばかりではありません。オレがオレが、という選手も当然いますが、そうじゃない選手には、自分から積極的にいくようにと話しています。全社や地決で試合に出ていたのは、それが出来る選手たちでした」

 

――チームには、元Jリーガーの選手も増えました。

「プロ選手は自分のことは自分でケアできますが、アマチュア選手はこちらからの手助けも必要になってきます。7年間で選手も入れ替わってきましたが、下のカテゴリーの時からずっと所属している選手は、プロ選手から良い部分を学び、チームと共に成長しています。今はプロ意識の高いチームとしてまとまっているな、と感じています」

 

――FC大阪の監督に就任してからの7年間、監督自身はいかがでしたか?

「いろいろと学ぶことは多かったです。1年1年が勝負でした。昇格するためには必ず結果を出さなければいけませんが、上を目指せるというのは楽しさを感じられる部分でもあります。『昇格』は、J2以下のチームにしか持てない目標・喜びですからね」

 

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挑戦者として。強く賢いチームで、もっと上へ。

 

今季「堅守猛攻」というスローガンを掲げたFC大阪。2015年JFLファーストステージ、順位は5位で終えたものの、最終節までもつれこんだ優勝争いに加わった。インタビューをおこなったのはまだ寒さの残る開幕前だが、その時に宣言していた通り、高い位置を目指して自分たちの力を遺憾なく発揮している。

 

――選手時代も含め、監督自身も初めてのJFLです。

「私自身は、プレッシャーよりも楽しみの方が大きいです。ウチはJFL1年目のチャレンジャーのチーム。どれだけ通用するのか、自分たちの力を試していきたいですね」

 

――選手たちはいかがですか?

「楽しみにしてるんだろうな、というのは練習を見ていても感じます。決して楽なメニューではないですが、楽しそうに取り組んでいます」

 

――JFL1年目、チームとしてどう位置付けますか?

「今まで勝てたやり方でやっても、JFLで勝てるとは限らない。さらに上を目指すなら、チームとしてどんなサッカーをやっていくか、土台づくりの1年になると考えています」

 

――どういうサッカーをしていきたいと考えていますか?

「やはりサッカーは得点するシーンが一番盛り上がりますから、そういう場面を多く作っていきたいですね。また、駆け引きもサッカーの魅力のうちの1つです。レベルの高い戦いで様々な駆け引きができるような、強く賢いチームにしていきたいと考えています。そのためには、個の力を伸ばしたいですね。個の成長なしにはチームも成長できない。個を伸ばすことで、おもしろいサッカーができると考えています」

 

――最後に、ファン・サポーターにメッセージをお願いします。

「2014年は、全社や地決など、遠いところにまで応援に駆けつけてくださったことがチームの力になりました。感謝しています。今シーズンは舞台が全国リーグになります。初めて試合を観ていただく方たちにも『もう一度観に行きたい』と思ってもらえるようなサッカーができるよう戦っていきます。楽しみにしていてください」

 

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Text by Kaori MAEDA

 

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