映画『ブータン 山の教室』 幸せの国で、本当の幸せを探す旅。

標高4,800メートルの山に位置するブータン北部の村・ルナナ。人口わずか56人のこの村には、電気も車もスマートフォンもなく、人々は伝統を守りながら静かに暮らしています。そんな現代の秘境を舞台にした映画『ブータン 山の教室』が4月30日から京都シネマで公開。あふれるモノと情報に翻弄されているわたしたちに“本当の豊かさとはなにか?”を問いかけてくる、コロナ禍の今こそ観てほしい映画です。

 

ブータン人は、みんな「幸せ」なのか?

ブータンといえば「幸せの国」という印象が強く、みんなが笑顔で暮らしているイメージがあります。しかし、物語の序盤、わたしのなかのブータン像が一気に崩れます。映し出される現代のブータンは想像以上に都会で現代的。首都ティンプーの若者たちはスマホを手放せず、ヘッドフォンをして都合の悪い話をシャットアウトしています。その姿は、“幸せの国の住民”には見えません。

 

本作の主人公・ウゲンも、どこの国にもいそうな現状に不満を抱いている若者。教師ではありますがオーストラリアに行って歌手になることを夢見ており、それを危ぶむ年長者の苦言には耳を貸しません。しかし、そんなウゲンに上司からルナナへの赴任命令がおり、彼はしぶしぶ“世界一僻地にある学校”へと向かいます。

 

標高4,800メートルの山にあるルナナへの移動時間は、なんと一週間以上。バスでは途中の街までしか行けず、残りは険しい山道を延々と歩いて進みます。都会の若者であるウゲンは文句をいいつつイヤイヤ歩くのですが、この道程がとても美しく壮大。山と川、そして信仰、映像のなかですが、思わず深呼吸したくなるような気持ちよさがあります。

コロナ禍で行動だけでなくココロも窮屈になっている今、開放的な心地よさを味わえる映画はなによりのごほうび。ぜひ、大きなスクリーンで体感してもらいたいものです。

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求められる場所と、求める場所。どちらなら幸せになれるのか?

ヨレヨレになりながらルナナに到着したウゲンを迎えるのは、大自然とそこで暮らす人々のあたたかいもてなし。山好きのわたしは「なんとうらやましい!」と思うのですが、ウゲンは違います。原始的で不便な生活状況を見て、「自分には無理」と戻ることを早々に決断。なんでもある都会のほうが豊かで、“自分を幸せにする場所”だと考えるのです。

 

確かにそれは間違っておらず、モノがあることは豊かさの象徴のひとつです。ただ、だからといって、人が幸せになれるとは限りません。現に都会ではいつも不満顔だったウゲンは、しぶしぶ暮らしはじめたルナナで明るくやさしい表情をもった若者へと変わっていきます。

 

ウゲンを笑顔にしたのは、すべてを受け入れてくれる村人のあたたかさと、彼を求める強い気持ちです。とくに教師であるウゲンを慕う子どもたちからの“学びたい!”という強い想いと、まっすぐに勉強を楽しむ姿は、教師の自覚と教える幸せを芽生えさせるには十分。外ばかり見てないものをうらやんでいた若者に、手に入る豊かさを気づかせるのです。

 

自分が求められる場所で、その求めに応えられる。

「ウゲンが幸せになれるのはルナナでしょ」と映画を観ているこちらはそう思うのですが、彼はどう感じて、どういう判断をするのか? この映画のパオ・チョニン・ドルジ監督は「主人公・ウゲンの“幸せを探す旅”を描きたかった」と語っています。ウゲンの旅を見守る観客であるわたしは、彼が本当に幸せを感じる場所にたどり着ければいいなぁと願うばかりです。

 

最後に、この映画にはウゲン役のシェラップ・ドルジなど俳優デビューとなる役者とともに、実際にルナナで暮らしている人々がたくさん出演しています。生徒役はすべて現地の子どもたち。厳しい状況にあっても純粋無垢に輝く笑顔は、かわいいだけでなく、力強さも携えています。ルナナの子どもたちの笑顔と出会えるだけでも、この映画を観る価値はある!とわたしは思います。

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映画『ブータン 山の教室』

2021年4月30日(金)より、京都シネマにて公開。

そのほか、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸でも近日公開。

※公開日などは各映画館および作品の公式サイトをご確認ください。

公式サイト:https://bhutanclassroom.com/

 

映画といっしょに「ブータン料理」を食べてみよう!

映画「ブータン 山の教室」と神戸市にあるJICA関西食堂がコラボレーション。関西ではなかなか味わうことができない「ブータン料理」を特別メニューとして提供してくれます。(〜5月31日までの予定)

“世界一辛い”といわれるブータン料理ですが、伝統の味わいを残しつつ日本人でも食べやすい辛さにアレンジ。また、会場では「ブータンパネル写真」や「映画 ブータン 山の学校 オフショット写真」、「ブータン民芸品・民族衣装」なども特別展示され、神秘の国・ブータンの世界にひたれます。ぜひ、映画といっしょにお楽しみください。

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映画「ブータン 山の教室」×JICA関西コラボ

開催場所:JICA関西食堂 兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1-5-2

開催期間:~5月31日(月) 

コロナの状況を踏まえて開催期間や営業時間などが変更になる可能性があります。詳しは公式サイトをご確認ください。

JICA関西食堂サイト:https://www.jica.go.jp/kansai/office/restaurant/index.html

masami urayama

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