映画『高津川』 いま足元にある幸せをかみしめたくなる、やさしい映画。

© 2019「高津川」製作委員会

優しい映画ができました。―――ダムがひとつもない一級河川「高津川」の流域で暮らす人々の日常と、そのなかにある葛藤を描いた映画『高津川』が2月11日(金)から梅田ブルク7、2月25日(金)から京都シネマで公開されます。

日本一の清流を舞台に、毎日を懸命に生きる人のありふれた日常を静かに切り取った抒情詩は、しみじみと心に染み入る滋味深い味わいです。

 

これはきっと あなたの物語。

けっして、派手な映画ではありません。刺激的な事件やどんでん返しもありません。でも、実家に帰ったときに地元ならではの出汁がきいた味噌汁を口にしたときの、なんともいえない幸せな気分をかみしめられる映画です。

 

主人公は高津川流域に暮らし、山の上で牧場を経営している斉藤学(甲本雅裕)。妻を亡くし、娘は都会にでたあとに戻ってきて就職していますが、地元の誇りである〈神楽〉の練習をサボり気味の高校生の息子は進路をどう考えているのかわからず、モヤモヤしています。

 

また、学の同級生たちもいます。母親の介護をしながら老舗の和菓子屋を継ぐ陽子(戸田菜穂)、寿司屋を継承していく健一(岡田浩輝)、高津川の清流で農業・養蜂をしている秀夫(緒形幹太)などそれぞれが懸命に自分たちの人生を生きているのです。

 

壮大な自然に見守られつつ、地元で懸命に生きる。ここだけ切り取ると美しく感じますが、きれいな面の裏には問題も潜みます。映画でも「若者の流出による人口減」「祭りや技術の伝承」という危機が盛り込まれ、学たちはこの地に生きることに誇りをもちつつも不安を感じ、〈このままでいいのか〉と心がゆらいだりします。

 

これはきっと あなたの物語

本作のコピーにこう記されているように、そこにあるのは、日本のいたるところにいる人々の姿です。どうしようもない不安を抱えつつも、目の前の日々をなんとか生きていく。そんな当たり前の暮らしを映しているのです。

© 2019「高津川」製作委員会

 

当たり前にあったことの大切さに気づき、前に進む。

でも、当たり前のなかには、いくつもの大切なことが隠れています。

映画のなかでは、それを気づかせてくれるキッカケとして、学たちの母校である小学校の閉校が描かれています。小学校は自分たちが子どものころ、学び楽しんだ場所であり、これからの子どもたちが育っていく場所。それがなくなるということは、地元の過去と未来が奪われていくようなものです。さらには、高津川上流にリゾート開発の話が持ち上がり、これまで当たり前にあったものが、これからも当たり前にありつづいていくわけでないという現実を突きつけられるのです。

 

さみしさや閉塞感が漂うなか学たちは相談し、母校の最後の運動会に「日本各地にいる卒業生を集める」ことを決めます。

もちろん、卒業生を集めた大きな運動会を開催したところで何かが大きく変わるわけではありません。最後に打ち上げ花火を上げただけともいえるでしょう。

しかし、動くことで、つながることで見えてくるものがあるのではないでしょうか。みんなと共有できた体験は宝物となり、一歩前に進む推進力にきっとなるはずです。

結局、人を救うのは人なのだなぁ…と、映画を見終わってしみじみ思いました。

 

また、本作は自然豊かな高津川流域の美しい景色と伝統芸能である「石見神楽」の演目も見どころです。とくに、何もかも受け入れてくれそうな雄大さをもった高津川は魅力的。コロナ禍が落ち着いたら行ってみたい場所のひとつになりました。

© 2019「高津川」製作委員会

 

映画『高津川』

2022年2月11日(金)より、梅田ブルク7、

2022年2月25日(金)より京都シネマなどで全国順次公開。

公式サイト:https://takatsugawa-movie.jp/

masami urayama

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