映画『サバカン SABAKAN』 「またね」といえる友だちができた、夏の小さな冒険。

©2022 SABAKAN Film Partners

ここは80年代。子供が主役です――― 1986年の長崎を舞台に二人の少年たちのひと夏の体験と友情を描いた映画『サバカン SABAKAN』。8月19日(金)からTOHOシネマズ梅田をはじめ全国で公開されます。

昭和の地方都市に流れていた空気感をリアルに表現した映画は、実際に体験した者には懐かしく、知らない人には新鮮に映るはず。夏の終りを感じはじめる今、過ぎゆく夏のせつなさとやさしさを映画館で味わってみてください。

 

大人になっても思い返して幸せになれる、子どもの小さな冒険。

ひと夏の小さな冒険。わたしが子どもだった昭和の時代、いやきっと今でも、経験したことがある子どもは多いはず。その冒険のほとんどはささいなことで(わたしは友だちと自転車で海に行きました)、大した感動もない結末だったりします。なのに、大人になった今でもふとしたことで思い出し、クスッと笑えて、少し幸せになれたりする。

そんな、子どものころの、小さくて、でもとても大切な冒険を描いているのが今作です。

 

映画のはじまりは、子どもが大人になった現代。草なぎ剛さんが演じる久田孝明は、幼いころから夢だった小説家になったものの、ゴーストライターで食いつないでいる状況です。家族とは別居中で、かわいらしい娘とも離れて暮らしています。

ふがいない現実を生きている大人の久田。彼がふと鯖の缶詰を目にしたとき、忘れられないひとりの少年に思いを馳せます―――。※「なぎ」の字は弓へんに「剪」。

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そこは1986年の長崎。まだ小学校5年生だった久田は、裕福ではないけれど愛情にあふれた父と母、生意気だけとかわいい弟に囲まれてにぎやかに暮らしています。斉藤由貴とキン消しが大好きで、小学校では先生から作文を褒められ、友だちとも楽しくやっている陽気な少年です。同じクラスには家が貧しく同じ服ばかり着ている竹本がいて、同級生たちからからかわれ、避けられています。独特な雰囲気をもつ竹本は休み時間をひとりで過ごし、友だちもいません。

 

クラスメイトではあるけれど、仲がいいわけでもなかった二人ですが、夏休みのある日、竹本が久田を訪ねてきて、いっしょにイルカを探しにでかけようと誘います。なぜ自分を誘うのか? 不思議に思う久田ですが〈イルカにあえる〉という誘惑に逆らえず、行動をともにします。とはいえ所詮、子どもがやること。しっかりした計画もなく進んでいく少年たちの冒険は、自転車が壊れたり、不良にからまれたり、海で溺れかけたり…、楽しいことばかりではありません。でも、ひとつひとつのトラブルに立ち向かうたびに彼らは距離を縮め、友だちになっていきます。

©2022 SABAKAN Film Partners

 

長崎の美しい景色の中にある、陰と陽。

彼らが暮らす長崎の街は地方の港町。海と山がある風光明媚な場所で、映画でもとても美しい景色が広がっています。豊かな自然の中で少年たちが友情を育む冒険をする。こう書くとキラキラと輝いているように思えるのですが、社会がきれいな面だけで成り立っていないように、映画のなかにも薄暗い部分はあります。たとえば、地方都市の閉塞感や貧乏な家庭に育つやるせなさ。美しい景色のなかにもそれらは存在し、子どもたちのキャラクターにも関連していきます。

裕福ではないけれど両親がいて暮らしに困らない久田と、父親が亡くなり衣類や文房具にも事欠く竹本。生まれてきた家庭によって陽と陰のキャラクターにわけられてしまう、どうしようもない現実も彼らは背負っているのです。

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この陽と陰のコントラストを見事に演じているのが、久田役の番家一路くんと竹本役の原田琥之佑くん。ふたりとも無名の子役で本作が映画デビューなのだそうですが、表情やしぐさがわざとらしくありません。「こんな子いたよね〜」と思わせてくれるので、観客も2人が仲よくなっていく過程に違和感なく追随できます。

 

「またね」という言葉の大切さを味わう映画。

小さな冒険を終え、夏休みに友情を育んだ二人。この夏がいつまでもつづけばいいのに。そう思っても、夏の終りは必ずやってきます。小さなボタンの掛け違いが生まれ、思いがけない事件が起こってしまうことで少年たちの関係は変化せざるを得なくなります。ここでもまた、どうしようもない現実をつきつけられるのです。

 

二人の少年がどうなったのか? それは映画を観てのお楽しみです。私は見終わったあとに、子どものころの友だちの顔が浮かんできて、〈元気かな? 元気だといいな〉と思えました。

 

また、この映画では、印象的に「またね」という言葉が使われています。「さよなら」でもなく、「いつか」でもなく、「またね」。

コロナ禍になって、わたしたちは〈また会う〉ことが簡単でなくなりました。友だちと飲み食いしながらくだらない話をする機会も減り、別れ際の「またね」がいつ実現するのかわからない世界になっています。

 

またあなたに会いたい、お互い元気で会おう。それが一言で伝わる「またね」という言葉の大切さを実感している現在。笑顔で「またね!」といえる友だちがいるのがどんなに幸せか、この映画が教えてくれています。

©2022 SABAKAN Film Partners

 

映画『サバカン SABAKAN』

2022年8月19日(金)より、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、kino cinéma神戸国際などで公開。

公式サイト:https://sabakan-movie.com/

masami urayama

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