〈不自由〉か〈自由〉か。中村梅雀、柄本佑、安藤サクラが時代劇の魅力を語る!「第14回 京都ヒストリカ国際映画祭」

歴史映画・時代劇にフォーカスし、10月29日(土)から京都文化博物館を会場に国内外の多様な作品を公開してきた「第14回 京都ヒストリカ国際映画祭」が11月6日(日)にフィナーレを迎えました。

最終日となったこの日には、特集されていた井上昭監督の遺作『殺すな』を上映。アフタートークショーでは出演した中村梅雀さん、柄本佑さん、安藤さくらさんが登壇し、井上監督と時代劇の魅力を熱く語り合いました。

 

夫婦で恋仲を演じたのは、井上作品だから。

この日上映された『殺すな』は、さまざまな人が行き交う江戸の橋を舞台に立場も年齢も違う男女3人の心模様を描いた作品。藤沢周平の短編集『橋ものがたり』の一篇を原作とした52分という短い映像ですが、〈嫉妬〉や〈寛容〉といった人間の情が深く丁寧に表現され、せつなくもあたたかな余韻を長く残してくれる作品となっています。

 

上映後のトークショーで今作の魅力を問われると、主役の浪人・小谷善左エ門を演じた中村梅雀さんは「人間に対する愛があること。後悔、悲しみ、失敗、愛し合うことや独占したい気持ちなどもすべてちゃんと汲み取り、愛情をもってつくられています。さらに観ている者がいろいろ考えさせられる空白もある」と井上作品らしい愛情深い作品であることを教えてくれます。善左エ門と同じ長屋に住む船頭・吉蔵役の柄本佑さんもつづき「どの役にも井上監督の愛情が注がれています。ぼくの役には(愛する人に)橋を渡られてしまう別れがあるのですが、それが後ろ向きではなく、前に進んでいこうというチカラがどこかに働いています。そこに感動しますね」と絶賛。今作ではじめて井上監督をいっしょに仕事をした安藤さくらさんは、男たちを惑わすファム・ファタール的な女性・お峯を独特の色気をまとって演じています。むずかしい役だったのでは? との質問には「ああしよう、こうしようと考えずに向き合いました。すごくシンプルな作品なので、演じようとしてしまうと悪目立ちすると思ったので」と演者としてどう向き合ったのかを披露。さらに、夫婦で恋仲を演じたことについては「ほかの作品なら避けるところですが、井上監督の作品だから絶対に出たかった」と特別であったことを明かします。

 

今作は構想から撮影スタートまで時間がかかっており、梅雀さんは2016年に手書きの脚本を井上監督から受け取っていました。「脚本を読んで感動してずっと待っていたのですが、なかなか実現しなくて…。無理なのかと思ったこともあります」。しかし、ある出会いがキッカケで好転したそうで「うちの近くの日本料理店で原作を書かれた藤沢周平さんのお嬢さんである遠藤展子さんと偶然に出会ったのです。そのときに〈殺すな〉がなかなか進んでいないと伝えたら、遠藤さんが働きかけてくれて話しがぐんぐん進んでいきました。(殺すなの実現に向けて)神さまが出会わせてくれた気がしますね」と、この名作がわたしたちに届けられた貴重なエピソードを伝えてくれました。

〈第14回 京都ヒストリカ国際映画祭〉『殺すな』トークショー

 

井上監督の現場は、痺れる!

今回ゲストで登場した3人は『殺すな』の出演者である前に、井上昭監督の大ファン。何作も監督作品に出演している梅雀さんは「脇役でも、通行人でもいいから出たい」と監督に申し出ていたそう。「監督は〈観ている人に想像させる〉ということを大切にしていました。語らなくてもいい、背中でもいい、無言で佇んでいるだけでも伝えて想像してもらう。そして、〈観ている人の数だけ答えがある〉ともおっしゃっていた。役者としてはそれを大事に演じなければいけないと常に感じていました」。そんな監督の姿勢は役者のポテンシャルを引き出します。「集中力を与えてくれるので、自分が思っていたことと違う要素が自分の中からでてきます。すべてのスタッフ・役者の気持ちが集中して特別なものが流れる。それが井上監督の現場です」と梅雀さん。

また、梅雀さんは「井上監督の〈よーい、スタート。カット〉が気持ちいいんです。痺れますよ!」と絶賛。これには柄本さんも同調し、「スタッフは監督の〈よーい、スタート〉のために準備をします。そして、監督の声がかかると止まっていたものが、一斉に動き出す。はじめて井上作品に出演した『遅いしあわせ』のときに体験して、ぼくも痺れました!」と熱をもって語ります。

数回、井上監督と仕事をしている二人に対し、安藤さんは『殺すな』が井上監督との初仕事。現場ではかなり緊張したらしく、「みなさんのように痺れるまでは至らなかった」といいます。しかし、監督に魅せられたことはかわりがないようで「井上監督はハンサム。とにかくかっこいいんです!」とべた褒め。「(現場でも)ドキドキしていた」と打ち明けてくれました。

 

理由はわからないけれど、時代劇はトキメク!

『京都ヒストリカ映画祭』は歴史映画・時代劇にフォーカスした世界で唯一の映画祭。トークショーの最後には時代劇の魅力はどこにあるのか? と司会者が3人に問いかけます。

まずは数多くの時代劇に出演経験のある梅雀さんが「不自由さですかね。身分制度があって階級が違うとつきあうこともままならないし、連絡を取りたくても電話がありません。手紙は時間がかかるし、書きたくても文字の読み書きができないかもしれない。いろいろな制限があるなかで、人々は想いをなんとか伝えようとします。しかも、その恋愛が大事件になるかもしれない。不自由な時代に飛んでいけるのが時代劇です」とコメント。つづく柄本さんは、その〈不自由〉さを現代人が体験できていないからこそ、〈自由〉に表現できる魅力があるといいます。「やる側も見る側も自由になれるような気もしています。わからない・知らない世界に連れて行ってくれて新たな発見ができるし、今とかわらない部分があることもわかる。自由度が高くなるところも時代劇の魅力」。

梅雀さんと柄本さんが時代劇の魅力を熱く語ったあと、3人目として締めのコメントを求められた安藤さんは時代劇体験は二人に及びません。「(コメントの)順番が違うと思う」と苦笑いしつつ「演じる側として、『殺すな』で時代劇のおもしろさに気づくことができました。わたしには(柄本さんがいった)時代劇の自由さはまだわからないので、もっと勉強してこれから感じられるようになれれば」と今後も時代劇に取り組んでいきたい気持ちを会場に集っている時代劇ファンに伝えます。さらに、安藤さんらしいはじける笑顔とともに「理由はわからないけれど、時代劇はトキメキます!」と時代劇LOVEを表明して明るく締めてくれました。

〈第14回 京都ヒストリカ国際映画祭〉『殺すな』トークショー

 

『第14回 京都ヒストリカ国際映画祭』

期間:2022年10月29日(土)〜11月6日(日)

会場:〈シアター上映〉京都文化博物館(3Fフィルムシアター)

〈オンライン上映〉配信動画サービスMIRAIL(ミレール)

公式サイト:https://historica-kyoto.com/

masami urayama

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