映画『仕掛人・藤枝梅安』舞台挨拶。梅安は謙虚なダークヒーロー。

時代小説の巨匠・池波正太郎の作品はこれまで何度も映像化され、多くの名作が残っています。そして2023年、池波正太郎生誕100年という記念すべき年に、新たな傑作が誕生。映画『仕掛人・藤枝梅安』が2月3日(金)から全国で公開されています。

これまで多くの名優が演じてきた梅安を、今回演じるのは豊川悦司さん。シャープさと渋さ、さらには色気を携えた新たな梅安像をつくりだしています。

2月4日(土)、公開を記念した舞台挨拶が大阪ステーションシティシネマで行われ、主演の豊川悦司さん、河毛俊作監督が登壇。さらには前日まで京都で仕事をしていたという善四郎役の田山涼成さんも駆けつけ、和気あいあいと楽しいトークが繰り広げられました。

 

天海さんと田山さんのシーンに男と女のせつなさが見える。

舞台挨拶の会場は大阪。出身地での開催に豊川悦司さんは「ホームなので気が楽です」と笑顔を見せ、「作品をご覧になったあとの舞台挨拶ということで緊張しながらこの会場に入ってきましたが、みなさんのお顔を拝見すると大丈夫だったんじゃないかなと思いました」と安堵した表情に。つづく田山涼成さんも「ステキな作品でしたでしょう? わたしも出演していますが、みなさまと同じようにワクワクしておりました」と会場に詰めかけたファンのように目を輝かせます。

 

本作には重要なキャラクターとして悲しき過去を背負う女性・おみのが登場します。演じる天海祐希さんは田山さんが携帯電話をもったときに初めて連絡先を交換した女優さんだそうで「(交換したときは)ショートメールでやりとりしていたのですが、その後は途切れていました。でも、今回ごいっしょすることになって、また連絡がきました!うれしかったですねぇ」とエピソードを披露。さらに現場では、「色っぽいシーンもあってドキドキしたのですが、天海さんから〈大丈夫ですから、やってください!〉といってくれた。ステキで美しい方だと改めて思いました。共演者としてやりがいのある現場でした」と天海さんを絶賛します。

 

豊川さんも「男前な方」と天海さんを評し、その天海さんと田山さんのシーンがとても好きだといいます。「愛だけでつながらなかった男と女のせつなさみたいなものが、天海さんと田山さんのなかに見えて、すごくジーンときました」。

映画『仕掛人・藤枝梅安』舞台挨拶での豊川悦司さん

 

これまで何人もの梅安を見てきたけど、豊川さんはぴったり。

梅安は、腕のいい鍼医者として人の命を救う顔と、生かしておいては人のためにならない悪を葬る仕掛け人というふたつの顔をもつダークヒーロー。〈梅安の魅力は?〉と聞かれた豊川さんは「自分が抱えている矛盾みたいなものに対してきちんと向き合おうとする、そこがすごく男らしい。自分の欠点や迷いに目を背けないところが好きですね。ぼくは、下ばかり向いていますから」と自身のキャラクターとの違いを交えて説明します。

田山さんも、豊川・梅安に魅せられたひとり。「これまで何人もの梅安を見てきましたけど、お世辞をいうわけではなく、(豊川さんは)ぴったり。この身体つきと冷たい眼差し、ぴったりだと思いませんか?」と観客に問うと、会場には大きな拍手が鳴り響いていました。

 

また、河毛監督は「人は良いこともすれば、悪いこともする。どこか矛盾を抱えているグレーな生き物です。しかし、現代はネット社会の発達などによって物事を善悪ではっきり切り分けなければいけない状況にあります。そんな時代に、人間のグレーな部分を抱えながら折り合いをつけて生きていこうとする姿は問いかけてくるものがあるのでは」と梅安のような矛盾を抱える人間を今の時代に描くことに意味を見出します。

さらに、「梅安も相棒である彦次郎も悪い人をやっつける正義の人だという顔をせず、いつかは自分も同じような死に方をすると思っています。それでも、自分たちの行為でわずかながらも誰かが救われたり、失われた魂が報われたりしたらいいと考える〈謙虚なダークヒーロー〉。そういうところに池波先生の哲学みたいなものがあって、それを意識してつくったというのはあります」と原作者である池波正太郎さんが作品に託した哲学も踏まえたことを明かしてくれます。

映画『仕掛人・藤枝梅安』舞台挨拶

 

約2時間、非日常の世界で心が遊べる映画。

本作は見どころが多い作品。見どころを問われた登壇者たちも、〈このシーン〉と限定するのではなく、作品全体を堪能してほしいと口にします。「映画のなかの風景は、今の自分たちが見ているものとは違う。でも、江戸でも、京でも、もしかしたらこんな感じだったのではと想像させてくれます。これら風景は監督がものすごくこだわってつくった画で、ほかの作品であそこまで作り込んでいるものはないと思う」と豊川さん。田山さんも「この映画はものすごくはっきりした輪郭の人間がどっと登場していて、それぞれに生き方があります。それを監督が俯瞰で見て映像にしています。ちょっと俯瞰で見てもらえると、ステキな音楽や色合い、絶妙なカット割りで描いているのがわかります」と大きな視点で映画を楽しむことをすすめます。

 

演者から映像づくりを絶賛された河毛監督。自身は見どころを質問されると困惑するらしく、「全部としか答えられない」と監督という立場らしい言葉を返します。そのうえで、「映像づくりで意識したのは光と影。あの時代の人が見ていたであろう街の灯りや太陽の光などはすごくこだわりました。それに、光と影は人の気持ちにもある。文学的な意味も含めてすごく意識しました。手前味噌で恐縮ですが、それが気持ちよくあがっているような気がします」と自信をのぞかせます。

 

映画を映画館で観ている時間は、忙しない日常から切り離される至極のとき。現代とかけ離れた時代を描く時代劇は、ことさら知らない世界へと誘ってくれます。

「約2時間、非日常の世界で心が遊べる」と河毛監督がいうように、『仕掛人・藤枝梅安』はぜひとも映画館で観てほしい作品。豊川さんも本作を多くの人に見てもらえることを願い、「ご覧になった方の感想は間違いありません。気に入ったなら、お友達やご親戚などに〈おもしろかったよ〉〈なかなかよかったよ〉といっていただければうれしく思います」とあいさつして舞台挨拶を締めました。

映画『仕掛人・藤枝梅安』舞台挨拶

 

映画『仕掛人・藤枝梅安』

2月3日(金)から、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、TOHOシネマズ二条、kino cinéma神戸国際などで公開

公式サイト:https://baian-movie.com/

masami urayama

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