映画『犬部!』篠原哲雄監督インタビュー。エンタメ映画として、動物保護というテーマを届ける。

あふれるほどの愛でしか、世界は変わらない――― 2003年、「生きているものはみんな助ける」という“異端の獣医学生”の一途な想いで設立された「犬部」。行き場を失った犬や猫を保護し、命を守ることに燃えていたメンバーたちはやがて卒業し、理想と現実の間で揺れ動いていく…。

青森県の北里大学獣医学部に実在したサークルを元にした青春“犬ラブ”ムービー『犬部!』が7月22日から全国ロードショー。公開に先立ち来阪した篠原哲雄監督にインタビューし、制作のへの想いや撮影でのご苦労、さらには林遣都さんをはじめとした俳優たちについても語っていただきました。

 

最初に話を聞いたときは、「犬ものかぁ…」と思いました。

―― 映画『犬部!』を拝見しました!いろいろ考えさせられる内容ではありますが、動物たちのかわいさなど癒やされる部分もたっぷりあって、少し閉塞感のある今の時期にぴったりなのでは?と感じました。

映画の準備はかなり前からはじまっていましたし、動物保護に関する動きはコロナウイルスに関係ありません。公開がこのタイミングになったのは、たまたまです。ただ、コロナ禍になって命の重みを感じることは多くなったように思うし、映画『犬部!』は動物たちを通して命の大切さを考えるキッカケとなる物語。今の時期に合っているのかもしれませんね。

 

―― 北里大学獣医学部に実在したサークルを追ったノンフィクション書籍を原案に映画化しています。本作が誕生した経緯は?

『ばぁちゃんロード』という映画をいっしょにつくった近藤あゆみプロデューサーが原案となる書籍と出会って映画化の準備をはじめ、「いっしょにやってほしい」と声を掛けられました。でも、それを聞いたときは「犬ものかぁ…」と思ってしまって。犬を題材にした映画には感動を与えるタイプが多いという印象がぼくにはあって、単なる感動作をつくるのはイヤだったんですよ。

けれども、プロデューサーが目指していたのは、2003年の犬部創設時の話と16年後である2019年のメンバーたちの状況を合わせた二部構成。〈あの時代にこうやって犬部を誕生させ、つくったメンバーたちは現在こういうことをしている〉という物語にしたいと聞いて、“人間を描いていく映画”であると捉えられるようになりました。さらに、たくさんの動物保護のドキュメンタリーを手掛けている山田あかねさんが脚本を担当してくれることで、「単なる犬の映画にならない」と思えたのです。

 

―― この映画は動物保護をテーマにしていますが、若者たちが成長していく青春物語でもある。そのバランスがとてもいいと感じました。

「犬部」には林遣都くんが演じる花井颯太のモデルとなった太田快作(おおた かいさく)さんという方がいて、学生時代に外科実習を反対し、中心メンバーとして犬部をつくった。それは事実の話。でも、中川大志さんが演じている柴崎涼介のような存在は実際にはいませんでした。映画では、同じ目標を持ちながら違う考え方をする柴崎を登場させて颯太と柴崎の“バディもの”にし、動物保護というテーマを多面的に伝えられるようにしています。さらには、浅香航大くんが演じた秋田智彦や大原櫻子さんの佐備川よしみというキャラクターもいる。

さまざまな要素をごった煮にして、ドラマとして楽しめるのが映画。本作のテーマは動物保護ですが、それだけを主張するだけでは映画というエンターテインメントにはならない。動物保護を訴えたければドキュメンタリーでいいし、そういったドキュメンタリーはすでにありますからね。

 

警戒心の強い犬が、林遣都くんにだけはなついていた。

―― コロナ禍のなかでの撮影だったとお聞きしました。

山梨県の動物愛護センターや、北里大学のある青森県十和田市で撮影するオールロケの映画。2019年7月からの撮影は、かなりシビアな状況でした。しっかり対策をとることはもちろん、参加者たちは検査を受けて陰性を証明。映画の現場には通常ない「衛生班」もつくって、撮影に挑みました。

 

―― 衛生対策のほかに変化はありましたか?

宴会がなくなりました。この業界は、結束を図るためにみんなで飲み食いをするのが慣わしみたいなところがある。でも、宴会がなくても結束するのは当たり前なのですよ。ある種の慣わしだった宴会が必要なくなったのは、よかったのかもしれませんね。とはいえ、いっしょにお酒を飲んで生まれる会話で新しい要素が引き出されることもあるので、どちらがいいのかはわかりませんが。

 

―― 出演する俳優たちも大変ですよね。

撮影以外は宿舎にいて、食事もお弁当ばかりだったのでかわいそうでした。ただ、そのぶん、俳優と犬がふれあえる時間は増えましたね。この映画では、俳優と犬の関係性が大切なので、林遣都くんや中川大志くんは撮影に入るかなり前からそれぞれが担当する犬と接してくれていたし、ロケ先でも時間があると世話をしていた。

映画のなかに人間嫌いの犬が登場するのですが、演じているミックはもともと保護犬で警戒心が強かった。でも、林くんにだけはなついてね。林くんは予定より早く青森に入って犬とたわむれる時間をつくってくれていたから、撮影をするときにはミックと林くんは寄り添える関係になっていたのですよ。

 

俳優たちと議論をしながらつくっていった映画。

―― 主演の林遣都さんをはじめ、中川大志さん、浅香航大さんなど出演されている俳優さんたちはとても魅力的です。どうキャスティングされたのですか?

この映画は学生時代から、その16年後までを演じなくてはなりません。両方を演じられる俳優を探していたのですが、意外とむずかしくてね。そんななか、林くんが候補に挙がりました。彼なら20代前半から30代後半まで幅広く演じられるし、かつて犬を飼っていたこともある犬好き。決まったときは「やった!」と思いました。

柴崎役には、まだ若いけど30代も演じられる役者というので中川くんがいいとなったのですが、忙しくてスケジュールが取れないという話も出ていた。けれど、両者とも共演の希望が高く、その後うまく調整できたそうで、これには運命的なものを感じました。

また、浅香航大くんはこの作品が好きで待っていてくれました。彼は二枚目の要素をもっている俳優ですが、今回は秋田智彦という三枚目のキャラクターを演じてほしいと提案して。彼は楽しんで演じ、新しい魅力をみせてくれています。

 

―― 監督は、林遣都さん、中川大志さんのお二人はどういう俳優だと感じましたか?

林くんは常に冷静で、セルフコントロールをする俳優。彼のなかに花井颯太像がしっかりあって、そこにまっすぐ向かって演じていく感じでした。一方の中川くんは自分自身を鼓舞していくタイプ。彼の初日は精神的に追い込まれていくむずかしいシーンからの撮影で、役者としては大変だったと思います。でも、中川くんは本番前にカメラの後ろでカラダをほぐして自身を高め、「はい、大丈夫です。いきます」と挑んでくれた。その姿は、とても印象に残っています。

 

―― 役ヘのアプローチが異なっているのですね。そんなお二人をどう演出されたのですか?

よく議論しましたね。この映画では全部を決めておかない演出をしていて、脚本の内容も臨機応変に変えていきました。さらに、その変更をあえて俳優たちにいわず、現場で伝えて話し合っていたのです。

撮影では、事前に決めておくほうがいい場合もありますが、林くんや中川くんは映画にリアリティを求めていたし、納得して演じたいと考える人たち。演出をすべて決めておかず、現場で議論をしながらつくっていくことは重要だったし、とてもおもしろかったですね。

(C)2021『犬部!』製作委員会

 

映画『犬部!』 

2021年7月22日(木)より

TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、MOVIX京都、109シネマズHT神戸などにて公開。

公式サイト:https://inubu-movie.jp/

 

masami urayama

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