展覧会「柚木沙弥郎と仲間たち」 暮らしの美をつくる愉しみと、みる愉しみ。

染色家として、100歳を迎えた今なお作品を生み出している柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)さん。柚木さんの足跡を語るうえで欠かせないのが、ともに歩んできた仲間たちの存在です。同時代に生きた彼らは多くの時間をともにし、切磋琢磨しながら唯一無二の作品を創造してきました。そんな柚木さんと仲間たちの作品を集めた展覧会「柚木沙弥郎と仲間たち」が、大阪髙島屋7階グランドホールで開催されています。(〜9/3まで)。

 

生活をもっと健全で快適にするものたちとの出会い。

近年、その魅力が再評価され、ブームとなっている「民藝」。柳宗悦(1889〜1961)や濱田庄司(1894〜1978)、河井寬次郎(1890〜1966)らによってつくられた新しい美の概念で、各地の風土から生まれた日常の生活道具には用に則した〈健全な美〉が宿っていると提唱されました。柚木沙弥郎さんや仲間たちは初期の民藝運動を推進した作家たちに影響を受け、参画して制作に励んだ工芸作家です。

器や布、家具など暮らしの道具に美を感じられれば、気持ちが明るくなります。柚木さんたちも「いつでも気持ちの中に今日の我々の生活をもっと健全で快適なものにしたい」という思いをもって創作されています。

 

会場の展示は3つの章で構成されています。

第1章は〈出会いとはじまり〉。柚木さんと民藝の出会いからスタートします。

柚木さんは東京帝国大学(現・東京大学)で美術史を学んだのち、岡山県・倉敷にある大原美術館に勤務。初代館長であった武内潔真さん(1888〜1981)との出会いから民藝の思想を知り、さらに大原美術館の売店で型染カレンダーを目にして感銘を受けます。それは、染色家・芹沢銈介さん(1895〜1984)の手によるカレンダーで、数字や曜日が美しく調和し、日にちを見る行為を楽しくしてくれるものです。まさしく、暮らしを明るくする道具の美。会場に展示されているので、ぜひゆっくり観てください。

「柚木沙弥郎と仲間たち」会場内の様子

 

染色に関心をもつようになった柚木さんは紺屋(こうや)で修行をはじめ、民藝運動を担っていく仲間たちとも出会っていきます。大原美術館・館長の次男で陶芸家の武内晴二郎さん、柚木より5歳下の陶芸家・舩木研兒さんと親交を深め、柳宗悦の唯一の内弟子であった工芸家の鈴木繁男さんとも知り合います。会場に展示されている「三河万歳衣装裂」をはじめて紹介したのは鈴木さんだそうで、柚木さんは「これ以上は望めない幸せなめぐり逢い」だったと語っています。

 

展示では、武内さん、舩木さん、鈴木さんの焼き物などを展示。それぞれに作風は異なり、互いに刺激を受けながら独自の作品を追求していっているのがわかります。

「柚木沙弥郎と仲間たち」会場内の様子

  

いろ・かたち・もようで暮らしをワクワクさせる布たち。

第2章は〈生活を彩る色・かたち・もよう〉。こちらでは、柚木さんの染色作品がずらり展示されています。

昨年100歳を迎えた今も現役の染色家として活動している柚木さんの幅広い制作の根底には、日常の暮らしのなかで用いられるための実用の布への思いがあるそう。浴衣地や手ぬぐいなどの量産化を可能にする注染という伝統的な技法に力を入れ、広巾の布にも応用して世に送り出します。染め抜かれた模様はモダンでありながら、どこか土着的。さらに、型染作品ではユニークで大胆な図案が目を引きます。

「柚木沙弥郎と仲間たち」会場内の様子

 

これらは、服地やカーテン、タペストリーなどさまざまな用途で日常に用いられる布。愉しいデザインの布を手にした人は、どのように活用しようかとウキウキするはずです。会場には、柚木さんの服地を使ってご家族が仕立て、着用していた服が特別展示されています。どれもステキで、“わたしも着てみたい!”と強く思いました。

「柚木沙弥郎と仲間たち」会場内の様子

 

また、本章では、柚木家の食卓で実際に用いられている品々も展示。長年、愛用されてきた器や家具などには、使うことで宿るあたたかさと美しさがあり、民藝がめざす暮らしとはこういうものなのだと教えてくれます。

「柚木沙弥郎と仲間たち」会場内の様子

 

「かわいい」の、その先と出会う。

最後となる第3章は〈ひろめる ひろげる ― 萌木会の活動〉。柚木さんも中核メンバーとして活動していた染色家の団体「萌木会」に所属する作家たちの作品を展示しています。

「萌木会」は芹沢銈介さんを中心に昭和21年に発足した団体で、作家個人ではやりにくい仕事を協働して取り組むことを目的としていました。布の入手が困難だった戦後間もない時期は和紙に型染を施したカレンダーやグリーティングカードを制作。外国人の贈り物として人気が高かったそうです。

会場には、柚木さんを染色の道へと導いた芹沢銈介さんの着物や、岡村吉右衛門さん(1916〜2002)の屏風、小島悳次郎さん(1912〜1996)の帯地など、数々を展示。これら作品の文様は、ユーモラスだったり、おおらかだったり、つくる人の人柄が現れているようにも感じます。

「柚木沙弥郎と仲間たち」会場内の様子

 

柚木さんの作品をはじめ、本展に展示されている作品たちを観ると、モチーフや色使いの愛らしさから、つい「かわいい」「おしゃれ」と口にしてしまいがち。しかし、作品たちはそこにとどまらない生命力を放っています。

〈かわいい〉の先にある、日常のものたちの美しさやたくましさ。

それを感じさせるのは、作家たちが〈生きるよろこび〉と〈つくる愉しみ〉をもち、湧き上がってくるワクワクを手に込めて創り上げているからではないでしょうか。そして、そのワクワクは作品を通して伝播し、作品を鑑賞するわたしたちの心も踊らせてくれるのです。

「柚木沙弥郎と仲間たち」会場内の様子

 

展覧会「柚木沙弥郎と仲間たち」

期間:2023年8月23日(水)〜9月3日(日)

入場時間: 10:00〜18:30(19:00閉場)

※最終日(9月3日)は15:30分まで(16:00閉場)

会場:大阪髙島屋7階グランドホール

入場料:一般1,200円/大学・高校生1,000円、中学生以下無料

※障がい者手帳をご提示いただいた本人さま、ならびにご同伴者1名さままで入場無料とさせていただきます。

展覧会の詳細は公式サイトをご覧ください。

公式サイト

https://www.takashimaya.co.jp/store/special/yunokisamiro/

masami urayama

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