映画『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 〜ロックと家族の絆〜』やさしきロッカーの生き様。

日本でもっとも愛されたギタリスト───2023年1月に74歳で亡くなったロックミュージシャン・鮎川誠。その素顔と功績を貴重な映像と証言でつづるドキュメンタリー『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 〜ロックと家族の絆〜』が全国公開中です。

ロックミュージシャンとして、ギタリストとして、あまりにカッコいいのに、どこまでもやさしく、どこまでもハートフルな鮎川さんの生き様、そして死に様を記した映画。〈なぜ、こんなにも鮎川誠が愛されたのか?〉その理由を解き明かしてくれます。 

 

ロックは好きか。そりゃ、よかった。

ロックを語るときの鮎川誠は、いつも笑っています。相手は友人や家族、ミュージシャン仲間にとどまらず、ファンやその場にたまたまいただけの人にまで及んでフレンドリーに語りかけます。鮎川さんにとってロックを通じてのコミュニケーションは、すべてがフラットでボーダレス。わたしも「ロックが好きです!」と話しかけたかったし、あの独特な博多弁のイントネーションで「そりゃ、よかった」といってほしかった。本作を観ながら、心からそう思いました。

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そもそも鮎川誠とは?

言わずと知れたロックミュージシャンで、シーナ&ロケッツのギタリスト。福岡県久留米市に生まれ、75年にブルース・ロック・バンドであるサンハウスの一員としてレコード・デビュー。九州のミュージックシーンで名を馳せるも、バンドは全国区になる前に解散してしまう。その後、一旗を上げるために妻のシーナともに上京し、シーナ&ロケッツを結成。79年に細野晴臣が作曲とプロデュースで関わった「ユー・メイ・ドリーム」でヒットを飛ばす。

以来、約36年間をシーナとともにロックに生きつづけ、2015年のシーナ急逝後もバンドを継続。今年1月29日に他界するまで、ロックの初期衝動をまとったままギターをかき鳴らし、ロックンローラーとしての人生をまっとうした。

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経歴を簡単にまとめるとこうなります。しかし、これはミュージシャン・鮎川誠の一部分。鮎川さんをミュージシャンの面だけで語ってしまうのは、とても無粋な気がします。

 

〈ロック〉は、ミュージックカテゴリーのひとつです。しかし、鮎川誠という人はロックを音楽と生活にわけていません。映画のなかでシーナさんが「ロックするってことは、着る服も、生活も、食べることも、全部含まれる」といっているように、鮎川さんやシーナにとっては生きることすべてがロック。かといって、自堕落でも、無理をしているわけでもありません。鮎川さんが創造するロックな生活は、とてもやさしくて、あたたかいのです。

家族を愛し、暮らしを愛し、ロックを愛することが地続きになっている。それがどんなに幸せなことか、映像のなかの鮎川家が体現してみせてくれています。

 

〈いなくなった〉のは、たいしたことじゃない。〈いた〉ってことがすごいんだ。

この映画のベースは、2023年2月にドキュメンタリー“解放区”で放映されたTBSの番組。RKB毎日放送のディレクターである寺井到監督が、最愛のパートナーであるシーナさんを失ってもバンドをつづけ、ステージに立つ鮎川さんの情熱を伝えるために制作したものです。

しかし、2023年1月29日に鮎川さんが永眠してしまいます。物語の方向が大きく変わり、番組を再編集/再構築。貴重な未公開映像と新たに撮影したインタビュー映像を追加したのが本作です。

 

映像のなかで鮎川さんを語るのは、シーナ&ロケッツのメンバーである川嶋一秀さんや奈良敏博さんをはじめ、浅井健一さん、大江慎也さん、土屋昌巳さん、山口洋(HEATWAVE)、百々和弘(MO’SOME TONEBENDER)などトップミュージシャンの数々。ナレーションを務めている松重豊さんも熱く語っています。

みなさん、それぞれに鮎川誠という人物がどれほど魅力的であったのかを嬉々として口にし、とっても楽しそう。鮎川さんと出会った人は鮎川さんを好きになる、というのがわかります。

 

なかでも、ザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトさんが語るエピソードは印象的。音楽をはじめる前、岡山の少年だった甲本さんと鮎川さんの出会いが、ロックミュージシャン・甲本ヒロトを誕生させるのです。

さらに甲本さんは、むちゃくちゃシビレる言葉を発します。

“そんなにも影響を与えた鮎川さんがいなくなってしまいましたね”とつぶやく監督に「鮎川さんとシーナが死んだことは、たいしたことじゃない」といい、「いなくなったことは、たいしたことじゃないんだよ。〈いた〉ことがすごいんだよ」と。

 

シーナを亡くした鮎川さんも「ステージでシーナと会える」といっています。

ミュージシャンは、いや人は、死ぬことですべてが消えてなくなるわけではありません。音楽、言葉、影響を受けたできごと……出会えたものたちは決してなくならず、その気になればいつでも会えるのです。

 

このドキュメンタリーでは、鮎川誠に、シーナ&ロケッツに会えます。

彼らを知っている音楽ファンはもちろん、存在を知らなかった人もぜひ観てください。ライブを体験できないのは残念だけど、今から出会っても遅くないから。

映画『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 〜ロックと家族の絆〜』のワンシーン

 

映画『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 〜ロックと家族の絆〜』

2023年8月25日(金)より、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸で公開。

公式サイト:https://rokkets-movie.com/

©RKB毎日放送/TBSテレビ

masami urayama

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