ガンバ大阪やヴィッセル神戸、そして日本代表での活躍は説明不要。誰もが知る日本のレジェンドが世界を経験し、ガンバ大阪に戻ってきた。現役から続く独自のサッカーキャリアは、まだ道半ば。アカデミーコーチという新たな挑戦から、次を見据える。
ガンバ大阪アカデミーコーチ 宮本 恒靖 氏
エネルギーがあるうちに、新しいチャレンジをしたかった。
— 2011年に惜しまれつつ現役を引退されました。
ヴィッセル神戸との3年契約が満了するときに、今とは違う環境で新たなことを学びたいと感じました。「まだやれる」と言ってくれる人もいたのですが、自分が考えるレベルでプレーできないところもありましたし、エネルギーが残っているうちに新しいチャレンジをしたかったんです。
— そして、FIFAマスター(FIFAが運営するスポーツマネージメントの大学院)に入学。
ピッチの外にあるサッカーを学べることに惹かれました。大変でしたけど、サッカーを取り巻く環境をさまざまな角度から知ることができたので、選手時代とは違う観点からサッカーを見られるようになりました。クラブ運営はどうやればいいのか、スポンサーを集めるにはどうすればいいのかまで考えられるようになったのはFIFAマスターで学べたおかげ。人との出会いで世界中にネットワークができましたし、大きな財産になりました。
— その後、ブラジルW杯テクニカル・スタディー・グループへの参加や雑誌の編集、Jリーグ特任理事なども経験された。
いろいろ首を突っ込ませてもらいました。今まで知らなかったことを体験できて単純におもしろかったのですが、同時に日本のサッカー環境など考えさせられることもありましたね。
今なら現場でインプットとアウトプットができる。
— 今シーズンからガンバ大阪のアカデミーコーチに就任。なぜ、このタイミングで?
ひと通り活動してきて、自分は何をやりたいのか、そして何ができるのかを考えたときに「現場」に携わりたいと思いました。S級コーチライセンスを取りに行っていることもあって、現場でチームがどのように変化していくのかを日常的に関わって知りたかった。それに、ぼくにとってのインプットだけでなく、今ならぼくから子供たちにアウトプットできることもあるんじゃないかと。
— 子供たちにアウトプットできる、宮本さん独自の強みとは?
まだ身体が動きますし、デモンストレーションをして教えられることでしょうか。子供たちには言葉で10回言うより、プレーで1回見せた方が伝わることもある。選手として得てきた経験を活かせると考えています。
— 担当されているのはU-13。教えることは多岐にわたるのでは?
思春期に突入して内面の変化が生まれる年代ですから、サッカー以外のことも楽しんで「人として魅力のある人間になれ」と言っています。またサッカーを通しても多くを学べます。勝ち負けへのこだわりを持てれば、対戦相手だけでなく、自分自身にも負けない気持ちの強さを身につけることができますから。
— そうやってアカデミーで経験を積みつつ、目指すのはトップチームの監督?
監督はひとつの大きな目標。そのためにも、まだまだ学ぶ必要があります。まずはガンバ大阪アカデミーでできることをしっかりやって、S級コーチライセンスを取得する。今はこれに集中しています。
キャリアの考え方を子供たちに伝えたい。
— この春、『関西レジェンドクラブ』が発足しました。元選手たちが関西サッカーを盛り上げる取り組みにファンとしてはワクワクします。
選手としては、(レジェンドとして)サッカー界に何をもたらすことができるのかを具体的につくっていく必要がある。“元選手”というだけでは貢献できませんからね。例えば、キャリアの考え方。キャリアというのはいろいろな分岐点を経験しながら人生の中で築くもので、選手生活が終わっても続いていく。このことを知っていれば、サッカー以外のところを学ぶ大切さを子供たちは理解しやすくなると思うんです。元選手という立場になったからこそ、説得力を持って次の世代に伝えていけるものがあるのではないでしょうか。
宮本 恒靖 氏
ガンバ大阪ユースから1995年ガンバ大阪に入団。オーストリア1部リーグ・レッドブルザルツブルクを経てヴィッセル神戸に加入し、2011年に現役を引退。2015年、ガンバ大阪アカデミーコーチに就任。
Text by Masami URAYAMA