昨季、まさかの降格。今季はJ2で戦っているガンバ大阪。現在は順調に首位をキープし、J1復帰も見えてきた。厳しい現実のなか、どのようなチームづくりをし、再生への道を歩んでいるのか? 強化本部長の梶居氏に伺った。
落ちた年が勝負。一年でJ1に戻ってくる。
●今季も3分の2が終わりました。ここまでの戦いはいかがですか?
「今季、J2は42試合ありますが、その42試合を7試合ずつ6クールに分けたんです。それを5勝2敗ペースでいくと勝ち点が90になり、余裕を持って優勝できる。開幕後、数試合は新しい環境に慣れないこともあってうまく勝ち点を拾えませんでしたが、徐々に本来の力を出せるようになって、14試合を残した現在、ぴったりと目標通りの勝ち点を獲得できています」
● J2の戦いはJ1とは違いますか?
「まったく違いますね。まず、ガンバに対しての見方から違う。自分たちより個の能力が高い集団に対して100%以上の力を出して向かってきますから、やりづらいですよ。シーズンに入る前、過去にJ2を経験したFC東京や柏レイソルの強化担当の方から『そんな簡単にいかないよ』と聞いていたのですが、その通りでした」
●でも結局は首位にいます。(8/16現在)
「保有する戦力を考えれば、ぶっちぎりで優勝しなくてはいけません。今季の使命は『一年でJ1に戻ってくる』。落ちた年が勝負で、J2に慣れてはいけないんです。そのためには戦力を落とせませんから、昨季終了後にまずやったことは、既存の選手を慰留することでした」
●主力選手は残りました。
「自分たちで落としたものは、自分たちで取り返す。そういう思いを選手たちも持ってくれていました。ここ7~8年は優勝争いをしてきたチームですから、自分たちでもう一度やり直せば、また結果を残せると信じてくれています。それに、ガンバのサッカースタイルが好きなんだと思うんです。いろいろ言われていましたが実際に具体的な話はでてきませんでしたし、ガンバ愛で残ってくれたのかな、と。まあ、これは選手に聞いてもらわないとわかりませんが」
●今季は若手も活躍しています。
「現場には、実績のある・なしを関係なく、良いコンディションの選手を積極的に使ってほしいと伝えています。監督の長谷川は今季から関西に来て、ガンバもはじめて。固定観念のない真っ白な状態で見て選手を起用しているので、若手ががんばれる環境にはなっていますね」
踏襲するだけではダメ。チャレンジしないと。
●長谷川監督を招聘した理由は?
「去年、ガンバは大きなチャレンジをしました。十数年ぶりに外国人監督を招聘してチームを変えようとしたのですが、結果がでませんでした。そのことで感じたのが、コミュニケーションの大切さ。しっかりコミュニケーションの取れる監督をリストアップし、その中から彼にお願いしたのは、清水時代に若手をうまく使いながらチームをつくっていくことに成功していたから。ガンバも若手とベテランの融合にチャレンジしないといけないタイミングですから」
●コミュニケーションというのは?
「監督、選手、フロントは三位一体。それぞれが何を考えているのか? どういう方向に向かっているのか? どういうことをやればいいのか? をわかってないといけません。松波前監督もコミュニケーションは取れていたんです。ただ、経験値が少な過ぎた。それは彼にお願いした我々の責任でもあるのですが、今季は絶対に失敗できないシーズン。経験と実績があってコミュニケーションの取れる監督にお願いしました」
●長谷川監督はどんなチームづくりをしたのですか?
「ガンバの課題のひとつは守備の構築。それは彼もテレビの解説をしながら分析していたので、キャンプの時から徹底していました。これまでのガンバは守備でも個の力に頼っていた部分があったので、そこに規律を加える。1人ではなく、2人3人のグループでどう守るのか? をポイントごとに決めごとをつくって統制していきました。もちろん、守備の構築はこれまでもやってきましたが、最多得点しながら降格した去年の反省を踏まえてより徹底していますし、選手たちの意識も変わりましたね」
●課題を克服しつつ、ガンバのスタイルも踏襲しています。
「ガンバのスタイルに合った選手を集めていますから、変えてしまったら選手の良さを消してしまいます。とはいえ、ただ踏襲するだけではダメ。チャレンジをしていかないと。昨季、ガンバは10年続いた指導者から新しいスタッフに変えました。結果として失敗しましたが、どこかでチャレンジしないといけなかったんです」
●でも、チャレンジはリスクを伴います。
「たらればの話ですが、あのまま変えなければ今でもJ1で優勝争いをしていたかもしれません。でも、それ以上のものを得られる保証もなかった。昨季、ガンバはアジアチャンピオンになることを狙っていました。優勝争いをしてACLに出場できるところからワンステップ上がるためには、どこかでリスクを負ってチャレンジしないと、クラブもチームも変われないんですよ」
●今季のチャレンジは?
「守備の規律や若手の起用など、新しい環境で厳しいのですがチャレンジしています。今季の目標はJ2を優勝してJ1に上がることですが、ただ上がるだけではなく、来季J1で上位にいけるチームをつくって上がる。今のままではダメです。若手もこのままでは通用しないでしょう。準備は今からしていかないといけませんから、なんとか8月を乗り切って、涼しくなる秋からは来季を見据えた戦い方ができればいいと監督と話しています」
ロチャの獲得は賭けでもあった。
●強化部の仕事を教えてください。
「監督、スタッフ、選手などの組み合わせを考えてチーム編成をし、今季のコンセプトや目標を監督とすり合わせます。シーズンがはじまってからは、毎トレーニング、毎試合をチェックして評価・査定。さらに、スカウティング活動もあります。ガンバは強化部に3人いて、そのうち1人がスカウト担当。その担当に、必要なポジションを中心に選手をリストアップするよう指示をだしています」
●選手を選ぶ基準は?
「まずはポジションありきですね。そして、ストロングポイント。併せて性格なども考慮します。昨季の岩下は、おとなしい選手が多いガンバにガツンと言える選手がほしくて獲りました」
●今季は補強も上手くいっている印象です。
「家長が抜けた穴を宇佐美で、レアンドロが抜けた穴をロチャで埋めるというストーリーがあったのですが、うまくはまりました。ロチャに関しては数年前に売り込みがあって、レアンドロの代わりとなる選手を探していたときに売り込みのあった選手をチェックしたらロチャがいたんです」
●ガンバはこれまでJリーグで活躍した選手を獲ってきました。
「それがひとつの基準になっていました。でも、今の状況ではそんな選手がいても手がだせない。初めて日本にくるロチャは賭けでもあったのですが、若いときにブラジルからヨーロッパにでて海外生活に慣れているから、日本にも適応できると判断しました」
●宇佐美選手も戻ってきて大活躍しています。
「海外を経験したことで、高い視点でものごとを捉えられるようになっています。今でも海外に行きたい気持ちはあると思いますが、“今のままではダメだ”ということもわかっている。この夏も(海外から)レンタルの話はあったのですが、ガンバとしては3回もレンタルにだすなんてとんでもないし、本人も日本でしっかり結果を残して『完全移籍で来てください』と評価されるまで成長してから行きたいと切り替えています。今は気持ちよくやってくれていますよ」
●海外は快く送りだすスタンスですか?
「心がここにない選手を引き留めても良いチームはつくれませんからね。それに、ガンバに行けば海外から声をかけてもらえる環境をつくれば、良い選手が入ってきます。実際、ガンバで活躍すれば中東から声がかかるパターンができていたときは、“だからガンバに行きたい”という外国人選手もいました」
新スタジアムで新生ガンバを披露する。
●短期目標はJ2優勝。中長期の目標は?
「新スタジアム建設という大事業があります。日本ではスタジアムというとサッカーか野球をやる場所としか思われていませんが、ガンバが目指しているスタジアムは総合施設。結婚式やコンサート、企業の会議に利用できるかもしれない。募金で建設するなど、スタジアムでもチャレンジしています。そして、2015年秋に完成予定の新スタジアムでは新生ガンバを表現したいんです」
●新生ガンバとは?
「若手とベテランの融合。例えば、倉田や宇佐美、内田、西野といった若手選手たちがガンバの顔になれるようにつくっていく。とはいえ、遠藤や今野など今ガンバの顔となっている選手も簡単にはゆずらないから、競争になります。そんな競争の中から新しいガンバをつくって、アジアにでていきたいですね」
●選手層が厚いガンバはポジション争いが熾烈です。
「競争がないとチーム力は上がらないですよ。チーム編成を考えるときは同じポジションで選手同士が競える状況をあえてつくります。『同じレベルの選手が2人もいてもったいない』と言われることもありますが、長いシーズンを戦ううえでも必要なんです。特に昨季は選手の怪我でつまずきましたから」
憎まれるくらいのビッグクラブに。
●関西サッカーの状況はどうでしょう?
「関西にJクラブは4つあり、非常に激戦区。選手も取り合いになります。アカデミーでいうと、ここ数年はセレッソやサンガに遅れをとっていますが、今は下のカテゴリではガンバが強くなっています。そうやって切磋琢磨して、お互い“あそこには負けたくない!”という思いの中で競い合い、地域ぐるみで盛り上がってきているのではないでしょうか」
●そんな関西サッカーでガンバが担う役割と責任は?
「憎まれるくらいのビッグクラブになる必要があると思っています。ビッグクラブがあるとそれを追うクラブがでてきます。そうやって関西だけでなく、Jリーグ全体を引き上げる一翼を担えればいいですね。そのためにもサッカー専用スタジアムが必要なんです。ボールを蹴る音や選手の声が聞こえて、プレーも間近で観られる。サッカーのおもしろさを伝えられる4万人規模のスタジアムができれば、関西のサッカー文化を変えることができるんじゃないかと期待しています」
●ミュージアムやスタジアムツアーもやってほしいです。
「そのためには、飾れるトロフィーをもっと獲得しないと(笑)。いいスタジアムができても、そこでやっているサッカーに魅力がないと意味がないですから。良いチームをつくって、もっとタイトルを獲りたいですね」
Text by Masami URAYAMA