進化への改革。 誰もやらなかったことに、 チャレンジしていく。

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ガンバ大阪 取締役 アカデミー本部・強化本部担当 上野山 信行氏

J2から昇格しての三冠。2014シーズン、ガンバ大阪はJリーグに新たな歴史を築いた。前半は苦しみながらも自分たちのサッカーを信じて個がまとまり、強靱なチームへと成長する姿はサッカーから生まれる美しい物語を見せてもらったようにも感じた。その物語を紡いだひとりが、2014年から復帰した上野山さんではないだろうか。ガンバ大阪に戻って一年。何をし、そしてこれから何をしようとしているのか? 大いに語ってもらった。

 

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ガンバ大阪のサッカーが変わったのは、
基本に忠実になったから。

 

――昨シーズンの話ではありますが、三冠おめでとうございます。

「ありがとうございます。まさかでしょ?」

 

――正直、驚きました。J2から昇格しての三冠。

「みんなからもJ2から上がっての優勝はむずかしいと言われていました。でもね、優勝なんてずっとJ1にいても簡単ではありません。J2からとか、そんなマインドの壁を壊していかないとできることもできなくなる。もちろん、シーズン中には失敗も成功もありました。14節の段階で16位。“J2降格”とも言われましたからね」

 

――低迷した前半から一転、後半は快進撃。でも、大きな改革を行ったわけではないですよね?

「選手もスタッフも自分たちのサッカーをすれば勝てると信じていましたから、大きく変える必要はありませんでした。でも、前半はそれができていなかったわけですから“なぜできないのか?”を分析していって、原因のひとつが攻撃で相手に驚異を与えられていないことだったので、CFの獲得に走りました。それと同時に宇佐美も復帰してガンバのサッカーができるようになった」

 

――宇佐美選手とパトリック選手のコンビはハマリましたね。

「あれがサッカーですよ。サッカーというのは点を取るスポーツで、そのためにシュートを打ちます。では、シュートを打つためにどうすればいいのかというと相手の裏に行く。裏に走れば相手DFは恐がって下がるからスペースができるし、スペースがあればドリブルもパスも活きてきます。前半のガンバはそれができていなかった。FWがボールをもらいに下がってしまっているから相手は前に行きやすくなっていたし、失点も攻撃が悪いからやられている印象でした」

 

――守備は良かったように感じましたが。

「数字だけだと良く見えますが、東口のファインセーブに助けられた試合も多い。相手に決定力のある選手がいたら負けている試合がいくつもあります。今シーズンは、もっとバージョンアップしないと厳しいでしょうね」

 

――問題点を抱えつつも三冠を獲得。勝因は何でしょう?

「いろいろな要因が絡んでいますが、長谷川監督の指導力が一番だと思います。そして、パトリックの加入と宇佐美の復帰でガンバ本来の力で戦えるようになったのが大きなヒット。Jリーグには断トツに強いチームがなく、どのチームも優勝するチャンスがあります。そのなかで勝てるのは、優勝へと向かうマインドを持って100%の力を出して戦えたチーム。日本人がよく言う“120%の力”なんて存在しませんから、自分たちの強みを最大限に発揮できるかどうか。そのため必要なのが、基本をしっかりとやること。攻守の切り替えを早くして、ゴールに向かってプレーし、シュートを打つ。守備ではボールを奪いにいく。その繰り返しです。シーズン後半、ガンバのサッカーは基本に忠実になりました。それができたから勝てた、そう思っています」

 

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言葉で、マインドの壁を壊す。

 

――ところで、上野山さんのお仕事は?

「スタッフや選手が気持ちよく目標に向かっていけるようサポートすること、それだけですね。サッカーのことは長谷川監督に任せているので、全体的なところを見ています」

 

――というと?

「選手やスタッフを見て、意見を聞いて、違う方向を見ていると感じたら考え方を変えてこっちに向ける。ぼくはチームを強くするのは、考え方だと思っています。プレーするのは人間で、その人間を動かすのが考え方から生まれる行動。サッカーだけを変えてもダメなんです。考え方を変えないと」

 

――でも、考え方を変えるのは大変です。

「だから、言葉が大切なんです。言葉で考えさせ、自分でハッと気づかせる。例えば、調子が上がらず試合に出られない選手がいるとします。そういう選手は悩んでいたりするので話を聞いて、“大変やね”と共感したあとに“それで、どうするの?”と質問します。選手はハッとしますよ。愚痴は言えても、解決策を持っていないことが多いですから。“どうしたらいいですか?”なんて聞いてきたら、まずは自分の考えを言ってもらって、それを紐解いていきます」

 

――紐解く、ですか?

「頭を使って言葉にしていけば、考えが整理できます。解決策に選手が“もっと練習します”と言えば、“どんな練習をするの?”と質問する。そうやって問いかけていくことで、自分の足りないところはここで、そのためにはこんな練習をしなければいけない、ということに気づいてもらえる。“そうか、がんばれ”と励ますだけでは選手は考えません」

 

――その対応はアカデミーの選手だけでなく、トップの選手も?

「同じですよ。質問を投げかけて、どうやればいいのかを考えて成長してもらう。個人が成長しないと組織も成長できませんからね」

 

――選手とフロントは気軽に話せるものなのですか?

「お互いに壁をつくっていたらできません。スタッフが選手に気後れしたり、選手も自分のプレーを評価されている側には気軽に行けなかったりする。でも、そんな壁は壊せばいいんです。ぼくはスタッフにも、選手にも、お互いのところにどんどん行って話をしろと言っています。でも、仲良しこよしになってはいけない。このバランスは大切です」

 

――そうやって取り組まれて、この一年で変化は感じますか?

「感じますね。最初はぼくが座っていても誰も寄ってきませんでしたけど、今はみんなが話しかけてくる。組織全体で元気になったと思いますし、結果として2014シーズンは勝てました。でも、だからといって次も勝てるほど簡単ではないでしょう。サッカーには喜怒哀楽があって、喜びや楽しみもあれば、落胆や悲哀もある。だから、考え方が大切だと思っています。戦える情報も環境も用意したうえで、プレーする選手がいかに本気になれるか、ぼくらスタッフがどこまで本気にさせることができるのか、それがプレーに表れてチームを強くする」

 

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成熟期の選手と成長期の選手がいる。
今はチームとしてバランスがいい。

 

――2015シーズンもスタートしました。三冠を獲得した次のシーズン、期待も大きい。

「今季は謝ることが多くなると思いますよ(笑)。三冠獲得以上はないですからね」

 

――でも、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)があります。

「当然、勝ちにいきますが、まずはグループリーグ突破を狙う。目標を達成するためには途中経過がありますから、自分たちの現状を把握しながらクリアしていきます。2015年にACLを勝って、2020年にはCWC(FIFAクラブワールドカップ)で優勝できるチームをつくる。今からそのための準備をしています」

 

――日本代表でアシスタントコーチをされていた和田さんがコーチングスタッフに加わったのも準備のひとつ?

「そうです。彼は世界を見てきたし、戦って分析してきた経験がある。ACLで勝つために、加わってもらいました」

 

――近年、JクラブはACLで勝てていません。三冠を獲ったガンバ大阪に期待が集まるのでは?

「確かに、Jリーグを代表してアジアで戦うからには勝ちに行く責任がありますし、期待に応えることがプロとしての仕事だと思います」

 

――チームはいかがでしょう? 赤嶺選手や小椋選手の加入はありますが、大きく変えませんでした。

「遠藤選手や今野選手、明神選手など成熟期の選手に加え、成長期の若手選手たちも多い。良いバランスですし、チームはもっと伸びていくと考えています。組織ですから性格も考慮して配置しないと、バランスは保てません。試合に出場できる11人以外の12番目、13番目の選手が“出たい出たい”というタイプだとチームの和が崩れます。そのうえで、実力が拮抗していることも重要で、ここが離れていたら競争が生まれずに成長を止めてしまいます」

 

――ぬかりはないようですね。

「今季は再経験する年。昨季に三冠を獲得できましたが、断トツで勝ったわけでもありませんし、ガンバは王者でもなんでもないんです。初心に帰ってコツコツとやり直していきますよ。ただ、メンバーが替わっていないので、去年の経験を活かせるのは大きい。昨季は、良いときも悪いときもあって、そのときどきがどうだったか? を分析できますし、成し遂げた経験を思い出させることもできる。前半の低迷から這い上がって獲った三冠は財産です。その財産をエッセンスとして使えれば、苦しい時期も乗り越えられるのではないでしょうか」

 

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世界で戦える選手を育てるために、
改革していく。

 

――「2020年にCWCを獲るチームをつくる」とおっしゃっていましたが、チームの構想はあるのでしょうか?

「アカデミー出身の選手を中心にしたチームを考えています。チームの編成というのはむずかしくて、契約の問題などもありますし、ある意味では他力本願。お金があれば選手も獲得できますが、予算には限りがありますからね。自前で選手を育て、内製化していくことは何より大切です」

 

――セカンドチームをつくるというのは、そのためでもあるのですか?

「18歳の選手をトップチームに上げても、しっかりと戦える環境が少ないんですよ。トップの選手は年間50ゲームくらい厳しい試合を戦っているのに、試合に出られない若手選手はステップアップリーグがあっても年間8ゲームだし、トップ選手が試合に行ってしまったら残ったメンバー5、6名で練習している。これでは絶対に追いつけません。常にゲームができる環境に置いてあげないと選手は伸びていかない。それに、十分に鍛えられているセカンドチームがあればトップに良い選手を押し上げられるし、アカデミーからも選手を引き上げられる。若い選手を育てながら戦力維持ができますから、ACL対策やJ2降格を防ぐためにもセカンドチームは重要だと考えています」

 

――セカンドチームから好循環が生まれるんですね。

「アカデミーの選手がトップに上がり、CWCで活躍する。そして、海外に引っ張ってもらって移籍金を獲得する。それができて、ようやく育成が成功したと言えます。赤字だと言われ続けてきた育成で、儲かるようにする。“18歳で数億の移籍金が獲れる”、そんな選手をぼくはつくりたいんですよ」

 

――そんな選手が出てきたら、ワクワクします。

「できますよ。世界ではできているんですから。ブラジル人も、アルゼンチン人も、スペイン人も、みんな同じ人間。彼らができるなら、日本人もできます。そのためには、多くの改革が必要です。進化していくためには、誰もやらなかったことをしないといけませんからね。いろいろ考えていますよ!」

 

――チャレンジがたくさんありますね!

「子どもたちのためですから、楽しいですね。それに、費用対効果を生めばクラブのためになるし、魅力のある選手を育てられればファンやサポーターに楽しんでもらえる。サッカーは感動を与えられるエンターテインメントですから、観に来てくれた方にもっと喜んで、感動してもらいたいんです。昨季の前半みたいな試合は観たくないでしょ?」

 

――そうですね。やっぱりガンバ大阪には観て楽しいサッカーを期待してしまいます。では最後に、ファン・サポーターにメッセージをお願いします。

「今シーズンも良いとき、悪いときがあると思います。チームが苦しいときには嫌な辛い思いをさせてしまうかもしれませんが、最後にチャンピオンになるために本気で戦っていきますので、愛情を込めた応援をよろしくお願いします」

 

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Text by Masami URAYAMA

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