映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』あの頃があるから、いまの自分がある。

あの時も、あの場所も、あの人も、すべてがいまの自分に繋がっている――― バブル崩壊後の90年代半ばから2020年まで。変わりゆく時代のなかで、なんとかやり過ごしながら生きてきた「ボク(たち)」の姿をありのままに表現し、共感を獲得したベストセラー恋愛小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』を映像化! 11月5日(金)より劇場公開&NETFLIX全世界配信がスタートします。

90年代に青春を送った人はもちろん、90年代を知らない人にも、ちょっと懐かしく、そして鼻の奥がツンとする映画です。

 

“犬キャラ”と聞いて、小沢健二の1stアルバムだと思う人は観たほうがいい。

「一生こどもじゃだめかしら」。90年代に発した小沢健二の名言です(わたしの記憶が確かなら…)。サブカルチャーがかっこいい存在であり得た90年代。王子さまの言葉は時代の気分に刺さりまくり、(王道の人生を歩む)普通の大人はおもしろくない、なんて思っていた若者はたくさんいました。わたしも、そのひとりです。

そして、それなりに歳を重ねてきた現在。あの頃の自分を振り返ると、バカだな、若いなと恥ずかしさを覚える反面、いい時代に青春を送れたよなと満足感を得たりもします。

 

『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、あの頃の空気をそのまま切り取ったような映画。昔の自分を見るような登場人物の言動に「(そんなことも)あった!あった!」とうなずき、画面の至るところに散らばる時代を象徴する小道具たちにも「もっていたよ〜」と懐かしみました。しかし、ノスタルジックな共感は、年月のなかで片隅に追いやられていた“あの頃の自分”を刺激します。自分が想像していた大人になっているのか? そんなどうしようもないことを考えて、古傷がうずくようなやわらかい痛みを感じたりもするのです。

 

©2021 C&Iエンタテインメント

本作では、森山未來が演じる佐藤〈ボク〉の1995年から2020年が描かれています。

 

1995年、所在なく生きているボクは雑誌の文通募集欄で〈犬キャラ〉と名乗る女の子が気にかかり連絡します。犬キャラとは、小沢健二のファーストアルバム『犬は吠えるがキャラバンは進む(現在は『dogs』に改題)』の略称。届いた返事には小沢健二の切り抜きが貼り付けてあり、彼は王子だと書いてあります。

同じ音楽が好きだということは、カルチャーに敏感な若者にとって強力な引力になります。ふたりは手紙や電話で交流を重ねたのちに、目印にWAVEのビニール袋をもってラフォーレ原宿前で待ち合わせるのです。

 

もうね、この恋のはじまり部分だけで、ウソモノではない90年代が描かれていることがわかります。SNSなんてなかった時代、わたしたちの主要な連絡ツールは電話でした。でも、貧乏な一人暮らしだと高額な家電をひけなくて、小銭をもって公衆電話に籠もっていたのです(公衆電話にも電話番号があるのですよ!)。音楽など最新のカルチャー情報はレコードショップや雑誌から仕入れることが常で、タワーレコードやWAVEに通ったり、ROCKIN’ON JAPANやHを愛読したりしていました。

もちろん小沢健二が大好き。犬キャラもLIFEも聴き込んだし、「天使たちのシーン」には何度もココロを救ってもらいました。

 

そんな、あの頃のわたしたちのようなボクとかおりは、自分たちが歳をとっていくことはわかっていても実感がなく、〈普通であること〉を怖がって気ままな行動をとってみたりします。何者にも邪魔されないキラキラとした愛おしい時間を堪能する若者たち。でも、そんな時間はいつまでもつづかないのです。

©2021 C&Iエンタテインメント

 

わたしたちは大人になれなかったのか?

普通の大人になることを“つまらない”と感じていた若者にも、時間は平等に流れます。

2020年、コロナ禍で人との関わり方が一変した世の中でボクはそれなりの地位を得て働き、日々をやりすごしています。傍からみたら立派な普通の大人の姿です。

 

ところで、こどもはいつから大人になれるのでしょう?

年齢というわかりやすい記号はありますが、20歳や30歳になったからといって誰もが大人になるわけではありません。私自身も90年代のあの頃と大して変わっていないような気がするし(そう思いたいだけかもしれませんが)、「あなたは大人ですか?」と問われても“はい”と答える自信はなかったりします。

 

人は、一生こどもではいられません。でも、わたしはええ歳になった今でも「一生こどもじゃダメかしら」とどこかで思っているし、小沢健二を聴いて感動できています。(ちなみに、本作の後半でも小沢健二の曲が流れるのですが、歌詞とシーンのシンクロ感が秀逸。わたしはココが一番、刺さりました!)

 

結局、大人かこどもかなんてあいまいなもの。

でも、確かなことはあります。

 

あの頃があるから、いまの自分がある。

 

映画のなかでも、ボク、かおり、彼らが出会った人たち、みんなが歳を重ね、それぞれの場所で、それぞれに生きています。その姿は、あの頃を通り過ぎ、今を生きているわたしたちに少しの勇気を与えてくれるのです。

©2021 C&Iエンタテインメント

 

映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』

2021年11月5日(金)より、シネマート心斎橋、アップリンク京都

11月6日(土)より、神戸元町映画館にて劇場公開。

2021年11月5日(金)より、NETFLIX全世界配信開始

公式サイト:https://bokutachiha.jp/

masami urayama

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