映画『パラレル・マザーズ』 ペドロ・アルモドバル×ペネロペ・クルスが描く、愛の多面性。

その絆が愛を変える。―――自らの人生を投影した前作『ペイン・アンド・グローリー』が世界各国から絶賛されたペドロ・アルモドバル監督の最新作『パラレル・マザーズ』が11月3日(木・祝)から全国公開。今作ではライフワークでもある母の物語に戻り、二人の女性の数奇な運命を描いています。もちろん、アルモドバル監督らしいおしゃれな映像美も健在。ポップとダークをかき混ぜて重いテーマを提示する、アルモドバル・ワールドを十分に堪能できます!

 

最愛の娘が他人の子どもだった…。それがわかったとき、母親はどうする?

『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』『ボルベール〈帰郷〉』など、〈女性賛歌〉作品を発表しているスペインの名匠・ペドロ・アルモドバル監督。常に女性のたくましさや美しさを掘り下げ、一筋縄ではいかないストーリーで多面的な愛の在り方を提示してくれています。

そんなアルモドバル監督が今作で描くのが、運命に翻弄された2人の女性。思いもかけない出来事が起こったとき、何を選択し、どう行動するのか? 観る人に問いかけてくる作品になっています。

 

主人公は、フォトグラファーのジャニス。演じているのは、アルモドバル監督のミューズでもあるペネロペ・クルスです。ジャニスはファッション誌などで活躍するキャリア女性で、予想外の妊娠をしてもひとりで出産し育てることを迷いなく決断する強さをもっています。

出産を控えて入院したジャニスと同室になったのが、17歳のアナ(ミレナ・スミット)。望まない妊娠をし、不安な気持ちをもちつつも出産を選んだ少女です。同時期に出産を控え、出産後はシングルマザーという同じ状況になる二人は意気投合。不安定なアナをジャニスが励ましながら出産を待ち、同じ日にそれぞれ女の子をもうけます。そして、再会を約束して退院していくのです。

映画『パラレル・マザーズ』

ジャニスは娘をセシリアと名づけ、愛をそそぎます。ある日、元恋人でセシリアの父親であるアルトゥロ(イスラエル・エレハルデ)が「娘に会いたい」と来訪。セシリアを見た彼は娘が自分にもジャニスにも似ていないことに気づき、「自分の娘だとは思えない。DNA検査をしたい」といいます。ジャニスは腹を立て、アルトゥロと縁を切るのですが、自身もそのことが気になってしまいます。迷った末にネットで取り寄せたDNA鑑定キットで検査をしてみると、実の子ではないことが判明してしまいます。ジャニスは同じ日に生まれたアナの娘と取り違えられことを疑いますが、この秘密を誰にも打ち明けずにセシリアと生きることを決断。携帯電話の番号を変え、これまでの関係を絶つのです。

 

それでことが丸く収まる…とはいきません。ジャニスとアナは、一年後にカフェで偶然に再会。ジャニスが「娘さんは?」と尋ねると、乳児突然死で亡くなったことをアナから知らされるのです。

自身の本当の娘かもしれないアナの子どもの死を知り、気が動転するジャニス。しかし、彼女が取ったのは意外な行動でした―――。

映画『パラレル・マザーズ』

 

スペインという国で生きる家族の、未来へのまなざし。

是枝裕和監督の名作『そして父となる』など、子どもの取り違えをテーマにした作品はこれまでもいくつかあります。家族愛を描くという意味ではひとつの定型といってもいいのですが、そこはアルモドバル監督。子どもの取り違えが発覚したあとの展開は、「そうくるかぁ〜」と意表をつかれ、さらに「わたしなら、どうするかなぁ…」と考えさせられます。

 

また、この映画には、子どもの取り違えとともに、スペイン内戦で犠牲になった先人の遺体を掘り起こし、改めて尊厳のある場所に埋葬するという話も盛り込まれています。フランコ政権時代の共同墓地は、〈スペインの闇〉のひとつ。映画の最初と最後でふれる程度にとどめてはいますが、スペインという国で生きる家族を描くうえで必要なテーマだと監督は考えたのでしょう。インタビューでも「わたしは歴史の恨みを晴らしたいわけではなく、被害者の遺族として愛する者の名を墓石に刻み、彼らの尊厳を守ることのできる場所に埋葬して経緯を表す以外のことは何も求めていない」としつつ、「墓地の発掘を求めているのがすでに彼らのひ孫の代になっている今、それはスペイン社会が死者に対してすぐにでも果たすべき責任だ」とも語っています。

 

そんなアルモドバル監督の想いを表現したラストシーン。ジャニス、アナ、セシリアをはじめとした家族たちと、スペインという国が、未来へと向かっている―――。そんな、揺るぎない意思をわたしは感じました。

映画『パラレル・マザーズ』

© Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

 

映画『パラレル・マザーズ』

2022年11月3日(木・祝)より、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、kino cinema神戸国際などで公開。

公式サイト:https://pm-movie.jp/

masami urayama

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